N国・立花氏が私人逮捕の際によく主張する選挙自由妨害罪とは?

1 はじめに

最近何かとよく話題になるN国党首・立花氏ですが、これまでに何度かN国関連の選挙運動中に現行犯逮捕(刑事訴訟法213条・212条)おこなっています。その際、現行犯逮捕の理由としているのが選挙自由妨害罪(公職選挙法225条)です。

警察官などではなく一般市民であっても犯罪が成立していれば現行犯逮捕はできますが、果たして選挙自由妨害罪が成立しているのでしょうか。次に上げ3つのケースは実際に起こったものです。

【ケース1】 立花氏の選挙運動中に「女性を性犯罪から守ることはどうでもいいという発言をしたけどそれで国会議員としての資格があるのか」「売春を容認する国会議員はどこにいるんですか」などと大声で繰り返し発言。立花氏の演説が聞こえづらくなるくらいの声の大きさだった。
【ケース2】 Yは、N国大橋氏の選挙運動中に「ウソツキ」と発言後、現場から立ち去った。
【ケース3】 Zは、立花氏の選挙演説中にマイクを取り上げ、立花氏の身体を手で押した。

この記事をご覧のみなさんもそれぞれのケースに選挙自由妨害罪が成立するかどうかを検討してみてくださいね。なお、実際の現行犯逮捕のシーンはYouTube上で「n国 選挙妨害 逮捕」などと検索していただくといろんな動画が表示されますので、そちらをご参照ください。

2 選挙自由妨害罪の条文とその解釈

(1)公職選挙法225条の条文構造

まずは条文を確認しましょう。

第225条 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
一 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。
三 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

1号~3号にあたる行為をした者は4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金となっています。

ちなみに、選挙自由妨害罪の刑罰は、行為の内容と比較して重い刑罰が定められているといえます。たとえば、1号には「暴行」を加えたときとありますが、刑法の定める暴行罪よりも重い刑罰となっています。

第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
比べてみればおわかりの通り、選挙自由妨害罪は暴行罪のおよそ2倍の刑罰となっていますね。これは、選挙運動を自由におこなうことが選挙が公正におこなわれるための基本的条件であることを前提に、選挙運動の自由を手厚く保護するためにこのような刑罰となっているのです。

(2)225条1号の解釈

公職選挙法225条1号が禁止するのは、①暴行、②威力、③かどわかしです。

①暴行とは、人の身体に対する不法の攻撃をいいます。攻撃の方法は問われません。

②威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力のことをいいます。

③かどわかすとは、他人を欺罔しまたは誘惑してこれを現在地から他の場所へ連れていくことをいいます。

(3)225条2号の解釈

公職選挙法225条2号が禁止するのは、①交通の便を妨げ、②集会の便を妨げ、③演説を妨害し、④文書図画を毀棄し、⑤その他偽計詐術等不正の方法で選挙の自由を妨害することです。

①交通の便を妨げとは、選挙に関して交通の不能を生じさせる場合や選挙に関して交通の不便を生じさせる場合をいいます。

②集会の便を妨げとは、選挙に関する集会の開催を不能または不便にさせることをいいます。

③演説を妨害とは、選挙のために演説がおこなわれるにあたって演説を不能にしたりまたは聴取しにくくする等演説そのものに対して妨害行為をすることをいいます。

④文書図画を毀棄とは、反対候補者の立札、ポスター等を引き破り、損傷したり選挙管理委員会が掲示した候補者の氏名を抹消したりするなどの行為のことです。

⑤その他偽計詐術等不正の方法とは、虚偽の伝達、他人に害悪を企てる奸計術策、あるいは公序良俗に反するような方法をいいます。

(4)225条3号の解釈

公職選挙法225条3号が禁止するのは、特殊の利害関係を利用した威迫です。

特殊の利害関係とは、相手方の意思を動かしうるような特殊な利害関係であって、行為者がそれに何らかの影響力を及ぼし得るものをいいます。

威迫とは、相手方に不安の念を抱かせるに足りる行為をいいます。実際に不安を抱いたことまでは要求されません。

3 それぞれのケースについての検討

(1)ケース1の検討

ここまでで条文と条文に登場する言葉の意味については確認しました。では、それぞれのケースについて検討することにしましょう。もう一度ケース1を確認しておきましょう。

【ケース1】 Xは、立花氏の選挙演説中に「女性を性犯罪から守ることはどうでもいいという発言をしたけどそれで国会議員としての資格があるのか」「売春を容認する国会議員はどこにいるんですか」などと大声で数分間繰り返し発言。Xの声量は立花氏の演説が聞こえづらくなるくらいの声の大きさだった。

このケースでは、Xは、選挙演説の内容を聞き取りづらくなるくらいの大声で立花氏の資質を問うような内容の発言をおこなっています。そのため、Xの行為が立花氏の演説を妨害しているのではないかが問題となります。

既に確認した通り、演説を妨害とは、選挙のために演説がおこなわれるにあたって演説を不能にしたりまたは聴取しにくくする等演説そのものに対して妨害行為をすることをいいます。Xは、マイクを握る立花氏の演説が聞こえづらくなるほどの声の大きさで発言を繰り返したのですから、立花氏の演説を妨害しています。

Xの発言が単純な野次にとどまるものであれば演説の妨害とまではいえませんが、数分間繰り返し発言することは野次の範囲を超えているといえます。したがって、Xには公職選挙法225条2号の罪が成立します。

(2)ケース2の検討

続いてケース2です。もう一度ケース2を確認しておきましょう。

【ケース2】 Yは、N国大橋氏の選挙運動中に「ウソツキ」と発言後、現場から立ち去った。

このケースでは、Yは「ウソツキ」と一度発言をした後、現場から立ち去っています。一度きりの発言なので、ケース1のような演説の妨害とまではいえません。また、特殊の利害関係を用いたわけではないので、3号にはあたりませんし、1号にもあたりません。問題となりうるのは、2号のその他偽計詐術等不正の方法で選挙の自由を妨害することにあたるかどうかです。

2号の「その他偽計詐術等不正の方法で選挙の自由を妨害すること」は、選挙運動や投票に関する行為を直接妨害するような行為をいうとするのが判例の立場です(最高裁昭和44年2月6日)。これに対して、単に候補者に対する判断の自由を妨げるだけの行為は「その他偽計詐術等不正の方法で選挙の自由を妨害すること」にあたりません。そうすると、ケース2では、一度きりの「ウソツキ」との発言があっても問題なく選挙運動を続けることができますので、Yの発言が選挙運動を直接妨害しているとまではいえません。したがって、Yには公職選挙法225条違反は認められません。

なお、「ウソツキ」との発言が名誉毀損罪(刑法230条1項)や侮辱罪(刑法231条)にあたる可能性は否定できません。しかし、誰が「ウソツキ」であるのか、何についてウソをついているのかを明らかにせず、単に一言発言をしているだけなので、単なる野次の範ちゅうにとどまるといえるのではないかと思います。

(3)ケース3の検討

最後にケース3です。もう一度ケース3を確認しておきましょう。

【ケース3】 Zは、立花氏の選挙演説にマイクを取り上げ、立花氏の身体を手で押した。

このケースでは、Zは立花氏が手に持つマイクを取り上げ、立花氏の身体を手で押しています。このようなZの行為は、人の身体に対する不法の攻撃であり、公職選挙法225条1号にいう「暴行」にあたります。したがって、Zには公職選挙法225条1号の罪が成立します。

4 まとめ

以上検討した通り、ケース1・3では公職選挙法225条違反の犯罪行為が実行されているため、立花氏らによる現行犯逮捕は適法だったといえます。他方で、ケース2では、犯罪行為が成立していないことから、適法な現行犯逮捕とはいえないでしょう。

kubota
なお、現行犯逮捕の動画を視聴すると、選挙自由妨害罪のことを「公職選挙法204条違反」と発言したり私人逮捕は「刑事訴訟法223条」に基づくと発言したりしていますが、これらの条文番号については誤っています。弁護士であっても、条文の番号までは正確に覚えていないこともありますので、法律家でない立花氏らが条文番号を誤ったことを責めるつもりはありませんが、発言すべてを鵜呑みにしてはいけないということの一例として記載しておきます。