1 保釈とは?
保釈とは、保釈金の納付を条件として、勾留の執行を停止し、拘禁状態を解く制度のことをいいます。
勾留は、留置場や拘置所の中で、あらかじめ決められたスケジュールでの生活を強いられる身柄拘束の手続きです。勾留には、逮捕後におこなわれる捜査機関によるものと、裁判所によるものの2種類があります。このうち、保釈が可能となるのは裁判所による勾留に限られます。
勾留は、もともと勾留の対象となった者の逃亡や罪証隠滅の防止のための処分です。身柄拘束よりもより制限の少ない方法でも逃亡や罪証隠滅が防止できるのであれば、勾留よりもそちらの方法を選ぶべきです。そこで、一定の要件を満たす場合に保釈を認めています。
2 保釈が認められるのはどんな場合?
(1)保釈の要件
保釈には権利保釈と裁量保釈の2種類があります。
権利保釈については、一定の者の請求があれば、原則として保釈を許可しなければならないとされています(刑事訴訟法88条1項、89条)。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
しかしながら、89条をご確認いただくとおわかりになるように、かなり広い範囲で例外が認められています。89条の1号から6号のどれかに該当する場合には、権利保釈が不許可となります。つまり、権利保釈が認められるのは、次の場合です。
- 被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹
- 89条1号から6号に該当しない
権利保釈が認められない場合でも、裁判所が適当と認めるときは裁量保釈が認められることがあります(刑事訴訟法90条)。
裁量保釈では、保釈の必要性と相当性に関し、次のような事情を主張していくことになります。
- 保釈の必要性
- 被告人の身上関係
- 身元引受人の社会的地位および被告人との関係
- 被告人の保釈後の制限住所
- 補償金額の決定について参考となるような被告人側の経済事情
- 保釈の相当性
- 逃亡のおそれがないこと
- 罪証隠滅のおそれがないこと
以前は、裁判所は罪証隠滅のおそれなどを簡単に認めることで保釈をなかなか許さない傾向にありましたが、現在は、以前よりも厳密にさまざまな事情を考慮して保釈を許可するかどうかの判断をする傾向にあります。そのため、保釈については以前よりも認められやすくなっております。
(2)保釈には条件がつけられることがある
保釈を許可するにあたっては、旅行を制限したり、関係者との接触を禁止するなどの条件をつけることができるとされています(刑事訴訟法93条3項)。この条件に違反すると保釈が取り消される可能性がありますので注意が必要です。
(3)保釈金の支払い
保釈が許可された場合には、保釈金(=保釈保証金)を支払わなければなりません。保釈金については被告人の資産などを考慮して裁判所が定めます(刑事訴訟法93条1項・2項)。
保釈金については高額となることが多いですが、保釈が取り消された場合にはこれが没取されることがあります(刑事訴訟法96条2項)。逆に言えば、保釈が取り消されない限りは、保釈金は最終的には返ってくるお金なのです。このように、保釈金は、正当な理由なく刑事裁判に出頭しないときは保釈を取り消して保釈金を没取されるという心理的な強制をする役割を果たしています。
3 保釈は取り消されることがある?
保釈は一定の事由に該当する場合には、取り消されることがあります。一定の事由については、刑事訴訟法96条1項に定めがありますので、確認しておきましょう。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。