織田信成の濱田コーチに対するモラハラ訴訟の見通しを法律的に解説します。

1 事件の概要について

織田信成さんは2019年11月18日、関西大学アイススケート部の監督だった2017年2月~2019年9月に同部の浜田美恵コーチからモラルハラスメントを受けたとして1100万円の損害賠償を求めて提訴しました。

織田信成さんといえば、フィギアスケートで有名ですね。浜田コーチは織田さんに対して、どのようなことをしたのでしょうか。これについては、織田さんのブログから引用します。

最初は全く目線を合わせず挨拶を無視され、私の見える場所から陰口を叩かれ、私が近くを通ると話すのをやめるような行動が続きました。時々濱田コーチから挨拶されたりなど、理解できない行動もありました。私が好き勝手やっているような嘘の事実が噂となり、私の耳にも入るようになり、ショックを受けました。その後もリンク上で突然怒鳴られたり、また違う話し合いの場では意見を否定され続け、私を傷つける言葉も言われました。その場には関西大学関係者の方々が複数人いらっしゃり、ある方は心配して顧問に連絡を下さり、私に報告がありました。この時なぜこのような事をされるのか分からなくて、ただ涙が止まらなくなりました。
5月末、実施前の新しい部則のご説明にあがる前に、事前にどこかから入手した部則の内容が気に入らず、嫌がらせがエスカレートしました。私自身気にしないようにしていましたが、ある日リンクに行くと、耳鳴りや身体の震えがおこり、目眩で氷の上に立てなくなりました。濱田コーチからは以前にもリンク上での危険な練習について止めてほしいとお願いした所、激高された過去があったので、慎重に物事を進め耐えうる覚悟でしたが、心よりも身体が先に悲鳴をあげ、私の未熟さゆえ対応しきれずリンクに行く事が出来なくなりました。
リンクに行っていない間も、濱田コーチが関西大学関係者に「織田が私を辞めさせようとしている」とお話されたようで、副学長からスケート部顧問にその事実を確かめる問い合わせがあったと、顧問からご報告を受けました。
2月からの約4ヶ月間、向けられる敵意に恐怖を感じていました。
出典:氷上のお殿様 織田信成オフィシャルブログ https://ameblo.jp/oda-nobunari/entry-12546485610.html

2 モラルハラスメントとは

法律的な解説に入る前に、そもそも、モラルハラスメントとは何でしょうか。モラルハラスメント(=モラハラ)とは、言葉や態度で繰り返し相手を攻撃し、人格の尊厳を傷つける精神的暴力のことをいいます。そのひとつひとつをみたときには些細な言葉や態度であったとしても、それが繰り返されることで、被害者を苦しませ、さらには被害者の人格を破壊し、死に追いやることすらあるとされています。
モラハラの典型的な例としては、以下のような例が挙げられます。
  • 怒鳴る。強い口調で命令する。
  • 何時間もしつこく説教する。問い詰める。反省文を書かせる。
  • 土下座を強要して謝らせる。
  • 大切にしている物を壊す。
  • 財布・携帯を取り上げ、部屋に閉じ込める。
  • 「殺すぞ」「死ね」などと脅す。
  • 何を言っても無視して口をきかない。
  • 大きな音を立てて(ドアを閉めるなどして)威嚇する。
  • あなたが人前でした発言、行為についてダメ出しをする。
  • 「頭が悪い」「役立たず」「何をやらせてもできない」などと言って侮辱する。
  • 服装・髪型・体型などの好みを押し付け、従わないと怒る。
  • 自分のメールにすぐ返信しないと(電話にすぐ出ないと)怒る。
なお、モラハラについては以下の記事で解説しておりますので、もっと詳しく知りたいという方はご参照ください。

モラハラとは?モラハラ夫の特徴との対処法を弁護士が教えます

3 問題となる濱田コーチの行為

さて、モラハラについてはだいたいお分かりいただけたのではないかと思うので、織田さんが濱田コーチから受けたとされる行為のうち、モラハラになりうるものをピックアップしてみます。
  • 無視する
  • 陰口を叩く
  • リンク上で突然怒鳴る
  • 意見を否定され続け、私を傷つける言葉も言われる
このあたりになりますね。ただし、若干気になるのは、織田さんのブログの以下の記載です。
時々濱田コーチから挨拶されたりなど、理解できない行動もありました。
無視されているという認識ではあるものの、時々濱田コーチから挨拶をされたりしたことは認めています。このことから、少なくとも「無視する」というのは織田さんの被害妄想である可能性が存在します。
とはいえ、織田さんのブログでは、実際にどのような状況だったのかを具体的に記載しているわけではありませんし、証拠としてどのようなものがあるのかもわかりませんので、織田さんが受けたとされる嫌がらせ行為があったのかなかったのかをここで判断することはできません。

4 訴訟の見通し

モラハラを理由とする訴訟ということで、おそらく、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を請求しているものと予想できます。
訴訟において争点となるのは、①織田さんがモラハラだとする濱田さんの行為があったのかどうか、②モラハラ行為があったとしてそれが違法となるのか、③違法となるとして、濱田コーチの行為により1100万円もの損害が生じたといえるのか、という3点でしょう。
①については、前述の通り、具体的な状況がわかりませんので判断できません。
②については、モラハラ行為が違法とされるためには、一般にモラハラといわれるものよりも強度のものでなくてはなりません。今回の事件では、織田さん側は濱田コーチの行為を「モラハラ」だと主張していますが、パワハラとも関連する行為が見受けられるため、次の裁判例が参考になります。
福岡高裁平成20年8月25日
「一般に、人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には、心身の健康を損なう危険があると考えられるから、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であるというべきであり、国家公務員が、職務上、そのような行為を行った場合には、原則として国家賠償法上違法であり、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合があるものというべきである。」

これは海上自衛隊(=公務員)が職場でのいじめにより自殺したとして争いになったケースなので、「国家賠償法」という言葉がでてきますが、不法行為として違法となるかどうかを検討するにも参照されます。この裁判例をもっとわかりやすくいえばこうなります。

他人に多くのストレスをためさせてしまうような行為は原則として違法で、ただその行為にしっかりとした理由があって、方法や程度に問題がなければ違法じゃないよ!
つまりは、濱田さんの行為が織田さんに多くのストレスをためさせてしまうようなものである場合には、原則として違法となりますが、モラハラとされる行為の方法や程度次第では違法ではないと判断されることになるでしょう。
最後に、③違法となるとして、濱田コーチの行為により1100万円もの損害が生じたといえるのかという点です。これは、端的に慰謝料だけで1100万円を請求しているとなると、織田さんの主張が全面的に認められたとしても難しいです。しかしながら、おそらく、織田さんは濱田コーチのモラハラ行為によって関大アイススケート部の監督を辞めざるを得なくなったとして、もし辞めなかったら得られたはずの給料分も請求していると思われます。
そうしますと、濱田コーチの行為によって織田さんが監督を辞めざるを得なかったのかどうかが検討されることになりますが、織田さんがブログに記載した行為だけでそれを認めるのは少々難しいように思えます。

5 まとめ

ここまでこの事件について検討してきたところをまとめると以下の通りです。
  • 織田さんのいうモラハラ行為があったかなかったかはわからない
  • モラハラ行為があったならば、違法とされる可能性は(そこそこ)ある
  • 違法とされても1100万円全額認容は難しそう