1 暴行罪とは
暴行罪は、人に対して暴行を加える行為を禁止しています。条文を確認してみましょう。
あらかじめ、要件と刑罰を簡単にまとめると以下の通りです。
- 要件
- 暴行(傷害に至らないもの)
- 故意
- 刑罰(以下のうちのいずれか)
- 2年以下の懲役
- 30万円以下の罰金
- 拘留
- 科料
では、以下より暴行罪について徹底解説していきます!
2 暴行罪はどんな場合に成立する?
(1)暴行罪の要件
前述の通り、暴行罪の成立要件は、①暴行、②故意(刑法38条1項)の2つです。
暴行とは、人の身体に対する有形力の行使をいいます。有形力といっても難しいですよね。ひとまずイメージとしては、人に対して物理的な攻撃を加えることだと理解してもらって構いません。ですので、以下に挙げる行為は典型的な暴行といえます。
- 殴る
- 蹴る
- 引っ張る
暴行罪の故意としては、人の身体に対し有形力を行使することの認識が要件となります。つまり、人を殴る場合には、その人を殴るということを認識していることが暴行罪の成立要件となるのです。不注意で拳があたってしまったという場合には暴行罪とはなりません。
(2)判例はどんなケースを暴行罪にした?
これまでに暴行罪が成立するとしたケースは次の通りです。
- 帳簿を取り返すために他人に組み付いた(大審院明治35年12月4日)
- 人の髪の毛・ヒゲなどを切ったり剃ったりした(大審院明治45年6月20日)
- 手を持って肩を押し土間に転落させた(大審院大正1年1月24日)
- 逮捕に至らない程度に身体の自由を拘束した(大審院昭和7年2月29日)
- 電車に乗ろうとする人の服をつかんで引っ張った(大審院昭和8年4月15日)
- 被害者の数歩手前を狙って石を投げた(東京高裁昭和25年6月10日)
- 被害者が手に持っている空き缶を蹴った(名古屋高裁昭和26年7月17日)
- 警察官があごひもをかけてかぶっていた帽子を奪い取った(東京高裁昭和26年10月2日)
- 被害者の近くで太鼓やすりがねを連打し、意識をもうろうとさせた(最高裁昭和29年8月20日)
- あおむけに倒れた女子の上に乗りかかった(大阪高裁昭和29年11月30日)
- 通りがかりの婦女に抱きつき防止でその口をふさいだ(名古屋高裁金沢支部昭和30年3月8日)
- 進行中の車をめがけてこぶし程度の大きさの石を投げつけて命中させ、車の窓ガラス2か所を壊した(東京高裁昭和30年4月9日)
- おどろかせるつもりで椅子を投げた(仙台高裁昭和30年12月8日)
- スクラムを組んで体当たりをした(最高裁昭和32年4月25日)
- 脅すために身体の左脇部分を狙って発砲した(水戸地裁昭和38年3月25日)
- 4畳半の室内で日本刀を振り回した(最高裁昭和39年1月28日)
- カギのかけてある寝室の木製扉を叩いたり蹴ったりして、今にもその扉を壊して部屋に入ってきそうな態度を示した(東京高裁昭和39年5月4日)
- 携帯用拡声器を使って耳元で大声を出した(大阪地裁昭和42年5月13日)
- 脅すために日本刀を首ないし胸の至近距離に突き付けた(東京高裁昭和43年11月25日)
- 包丁で胸をめがけて突き付けた(東京高裁昭和43年12月19日)
- フォークリフトを被害者に向けて走らせ、衝突させるような態度を示しながらフォークリフトを近づけた(東京高裁昭和56年2月18日)
その他、一般に、たん・つばをはきかける、煙をふきかける、糞尿をかける、食塩をかける、汚物をかけるなどの行為も暴行にあたるといわれています。
3 暴行罪の刑罰
暴行罪の刑罰として定められているのは、①2年以下の懲役、②30万円以下の罰金、③拘留、④科料の4つです。暴行罪で刑事裁判となり、有罪が確定すると、執行猶予がつかない限りは4つのうちのいずれかの刑罰が科されます。
それぞれ説明しておきますね。
懲役(ちょうえき)……1か月以上の定められた期間、刑務所で服役します。
罰金(ばっきん)……1万円以上の金額を支払います。
拘留(こうりゅう)……30日未満の定められた期間、刑務所や拘置所で拘束されます。
科料(かりょう)……1万円以下の金額を支払います。
刑罰としては以上です。有罪にはなりたくないですね!そういうわけで、有罪を回避するための反論をみていきましょう。
4 訴えられた場合にできる反論は?
暴行罪によって起訴されてしまった場合、有罪とならないように、または執行猶予を獲得できるように反論を組み立てることが重要となります。では、どんな反論がありえるでしょうか。以下のように、さまざまな反論が考えられます。
⇒暴行が被害者のでっちあげだった場合にできる反論です。
⇒暴行自体は認めつつ、それは正当防衛(刑法36条)だったという反論です。
⇒スパーリングなど被害者の承諾の下で暴行がおこなわれたとの反論です。
⇒故意(38条1項)がないとの反論です。
⇒暴行罪にいうところの「暴行」ではないとの反論です。
⇒主に、不起訴を狙ったり、執行猶予を獲得する目的での反論です。