【ワンピース】山賊ヒグマの行為はどれくらいの罪になる?【第1話】

1 問題のシーン

赤髪のシャンクスをはじめとする海賊たちは、小さな港町の酒場に客として入店していました。そこに、山賊棟梁ヒグマがやってきました。ヒグマはマキノに対し酒を10個ほど売ってほしいと伝えましたが、酒は海賊たち出した分で既に切らしていました。これに申し訳なく感じたシャンクスは未開封の酒を一本ヒグマに提供しようとしたところ…

(出典:「ONEPIECE」尾田栄一郎・集英社・第1巻19頁より)

シャンクスが手に持つ酒を殴ることで酒瓶を割り、瓶の中の酒をシャンクスに浴びせたのです。さらに、割れた酒瓶を手に取り、掃除をはじめようとするシャンクスを見て、ヒグマは…

(出典:前掲21頁)

手持ちの剣を振り回すことで、シャンクスの傍のテーブル上の皿やグラスなどを粉砕したのです。

その翌日?ルフィは酒場に訪れたヒグマに反撃を加えようとしたところ、返り討ちにあいます。

(出典:前掲30頁)

(出典:前掲30頁~31頁)

シャンクス達がルフィを助けようとしたところ…

煙幕を張り、ルフィを海上に連れ去ってしまいます。

(出典:前掲41頁)

その後、ルフィを海に蹴落としたのです。

ここでは、このようなヒグマの一連の行為に日本の法律を適用した場合、どういった結論になるのかを解説します。

2 酒場での暴力行為について

山賊ヒグマのような客は店としてはお断りしたいところですが、一応酒を購入する気のある客として入店している以上、建造物侵入罪(刑法130条)は成立しません。

刑法第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

この条文にいうところの「侵入」にあたらないのです。

次に、酒を殴って酒瓶を割りシャンクスに酒を浴びせた点はどうでしょうか。酒瓶を割ったのは店に対する器物損壊罪(刑法261条)が成立します。

刑法第261条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

酒は「他人の物」ですし、酒瓶を割って酒を飲めない状態にしたことが「損壊」にあたるのです。

また、シャンクスに対して暴行罪(刑法208条)または傷害罪(刑法204条)が成立します。

刑法第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

ヒグマはシャンクスが手に持った酒瓶を殴っています。ヒグマの物理力はシャンクスの身体に向けられているといえるのです。暴行を加えようとしてケガをしなかった場合は暴行罪、ケガをした場合は傷害罪となりますので、シャンクスがケガをしたかどうかで結論が分かれます。特にケガをしたような描写はありませんでしたので、ここでは暴行罪が成立したということにしておきましょう。

次に、ヒグマは、手持ちの剣を振り回すことで、シャンクスの傍のテーブル上の皿やグラスなどを粉砕しています。これについても器物損壊罪暴行罪が成立します。暴行罪について補足すると、次のような判例があります。

最高裁昭和39年1月28日
弁護人Aの上告趣意第一点及び第二点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、原判決が、判示のような事情のもとに、狭い四畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を数回振り回すが如きは、とりもなおさず同人に対する暴行というべきである旨判断したことは正当である)。

今回の酒場は、判例で問題となった畳のスペースよりも広いですが、至近距離で刀を振り回した点でよく似た事例といえます。

ヒグマがシャンクスの手持ちの酒瓶を殴って割ったという行為と、手持ちの剣を振り回したという行為は同じ場所で連続的におこなっておりますので、器物損壊罪と暴行罪とはそれぞれ一罪ずつだと考えることができるでしょう。

なお、既にお気づきかもしれませんが、ヒグマが剣を持ち歩いていることについては、銃刀法違反となります。

3 反撃~返り討ちのシーンについて

ヒグマは、反撃に出たルフィを返り討ちにします。描写をよく観察すると、ルフィの歯が欠けているので、ヒグマのルフィに対する暴力行為は傷害罪にあたります。しかしながら、この暴力行為は先に攻撃を仕掛けてきたルフィに対しおこなっていることから、正当防衛(刑法36条1項)の成否を検討する必要があります。

刑法第36条1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

ルフィがヒグマの顔をめがけてパンチを繰り出したのに対して、ヒグマはルフィの頬をつかんで投げ飛ばしました。ヒグマは左手をポケットに入れたまま右手だけで全力を出すことなくルフィをあしらっていることからすると、ヒグマは大人であるのに対してルフィは子供であり両者の間には腕力に大差があることを考慮しても、急迫不正の侵害に対する必要最小限度の防衛行為として正当防衛の範囲内だと考えられます。

また、その直後にルフィがバット状の木の棒を持ちヒグマに殴りかかろうとしたのに対して、ヒグマはルフィの顔を足蹴りにし、姿勢を崩し倒れたルフィの顔をそのまま踏みつけました。ルフィが武器を持って殴りかかっていることからすると、ある程度の防衛行為は認められることになります。そして、ルフィは倒れてからも攻撃の意思を表示し続けていることから、ヒグマが顔を踏みつける行為をやめると更なる加害に出る危険性が否定しきれません。こうした点を踏まえると、描写上は若干過剰にも映りますが、なお急迫不正の侵害に対する必要最小限度の防衛行為として正当防衛の範囲内だといえるでしょう。

したがって、ヒグマが反撃に出たルフィを返り討ちにした点については、正当防衛が成立し、傷害罪は不成立となります。

4 連れ去り行為について

ヒグマが船を用いてルフィを海上に連れ去った行為については、未成年略取罪(刑法224条)および監禁罪(刑法220条)が成立します。

刑法第224条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
刑法第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

すなわち、ヒグマは、未成年者であるルフィを手で捕まえ、そのまま船まで運び、船を用いて海上に移動し、容易に逃げ出せない状態を作り出すことで、ルフィを自分の事実的支配下においているので、未成年拐取罪が成立するのです。また、船で海上に移動することで、ルフィが船の上から出ることを著しく困難にしていることから、監禁罪が成立するのです。

今回、略取の手段として監禁行為をしていると評価できますので、未成年略取罪と監禁罪とは一罪の扱いとなります。

次に、泳げないルフィを陸から離れた海に蹴落とす行為は、殺人未遂罪(刑法199条・203条)が成立します。

刑法第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
刑法第203条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

つまり、泳ぐことのできないルフィを海に蹴落とすことは、溺死の現実的な危険性を持つ行為ですので、殺人罪の実行行為にあたります。しかしながら、結果的にはルフィはシャンクスに救助され、死亡には至らなかったため、殺人未遂罪となるのです。

5 結論

ここまでのヒグマの犯罪をまとめると…

  • 器物損壊罪
  • 暴行罪
  • 未成年拐取罪
  • 殺人未遂罪

となります。

これらは併合罪(刑法47条)として処理されることになります。

刑法第45条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
刑法第46条1項 併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。ただし、没収は、この限りでない。
刑法第46条2項 併合罪のうちの一個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。ただし、罰金、科料及び没収は、この限りでない。
刑法第47条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

したがって、死刑のときは死刑、無期懲役の場合は無期懲役、有期懲役の場合は最大30年となります。