1 問題のシーン
大渦に巻き込まれたルフィは、酒樽に入ることでとある島まで漂流することに成功しました。その島では、女海賊“金棒のアルビダ”が休息をとっていました。アルビダの前に姿を表したルフィは、アルビダの投げた金棒の衝撃で吹っ飛ばされます。ルフィは、吹っ飛ばされた先でアルビダの船の雑用をしていたコビーとやりとりをしました。その直後、ルフィの前にアルビダが立ちはだかります。そして、「誰だ、このイカついおばさん」というルフィの発言や、「一番イカつい クソばばあです!!!!」というコビーの発言に逆上したアルビダは、
(出典:「ONEPIECE」尾田栄一郎・集英社・第1巻79頁より)
自慢の金棒でルフィの頭をめがけて殴りつけます。
これに対し、ルフィは、
(出典:「ONEPIECE」尾田栄一郎・集英社・第1巻79頁・80頁より)
ゴムゴムの銃でアルビダをノックアウトします。
それだけに留まらず、
(出典:「ONEPIECE」尾田栄一郎・集英社・第1巻81頁より)
倒れたアルビダの近くにいた船員に対し、
ルフィ「コビーに一隻小船をやれ!」
ルフィ「こいつは海軍に入るんだ!!黙って行かせろ」
と命令します。
今回問題となるのは、ルフィの反撃行為と命令行為に犯罪が成立するかどうかです。
2 ルフィの反撃行為について
ルフィの反撃行為の内容は、アルビダの顔面を勢いよく殴打し、吹き倒すものです。アルビダが意識を保っていれば、アルビダはすぐに起き上がると思いますので、アルビダは意識を失っていたと考えられるでしょう。そのため、ルフィの反撃行為は傷害罪(刑法204条)にあたるといえます。
もっとも、ルフィが反撃行為に出る前に、ルフィはアルビダに金棒で殴り掛かられています。そのため、正当防衛の成否を考えなければなりません。
今回の反撃行為の場合、ルフィはアルビナが金棒で殴り掛かってくるという急迫不正の侵害に対して、ルフィ自身やコビーを守るためにアルビダを殴っています。アルビダが金棒でルフィの頭部を殴りかかっているのに対して、ルフィは素手で顔面を狙って反撃を仕掛けておりますので、両者の攻撃の危険性を比較しても、ルフィの反撃は必要最小限度と評価できます。したがいまして、ルフィの反撃行為には正当防衛(刑法35条)が成立し、結局傷害罪は成立しないという結論になります。
3 小船を半ば無理やり提供させた点はどう評価する?
次に、ルフィがアルビダの船員に対し小船を要求した行為については、強盗罪(刑法)が成立するかどうかが問題となります。
アルビダの海賊団は、アルビダを恐れていたことから、その海賊団の中で最も戦闘能力が高いのはアルビダだと推測されます。そうすると、ルフィはそのようなアルビダをたった一発のパンチでノックダウンさせているわけですから、船員が反抗抑圧に至る程度の暴行がなされたと評価できます。
ただし、上記の暴行は小船を要求するという財物奪取の目的に向けておこなったものではありません。このような場合、強盗罪の成立を認めることができるのでしょうか。次の裁判例が参考になりますのでご覧ください。
なるほど原判決は、被告人らが強姦の意思で被害者に対し加えた暴行、脅迫についても本件強盗罪の犯罪事実の一部として判示しており、これらもその手段となったものと解していることが明らかであり、実際にも、右の暴行、脅迫は本件強盗罪の手段としての役割を果しており、被告人らもこれらの結果を利用して金品の奪取行為に及んだことが明らかである。そこで、このように最初強姦の犯意で暴行、脅迫に及んだ後、強盗の犯意を生じ、すでに行った暴行、脅迫の結果を利用して金品を奪取した場合、これらを強盗罪の手段と認めてその罪の成立を肯定することができるか否かにつき考察するのに、強姦罪と強盗罪とは、目的、法益の点においては違いがあるものの、暴行、脅迫を手段として被害者の意思を制圧し、その意思に処分を委ねられた法益である貞操又は金品を奪うという点においては共通しており、犯罪構成要件の重要な部分である暴行、脅迫の点で重なり合いがあるのであるから、強姦の犯意で暴行、脅迫に及んで抗拒不能とした後、強盗の犯意に変り、それまでの暴行、脅迫の結果を利用して金品奪取の目的を遂げた場合には、右の暴行、脅迫をそのまま強盗の手段である暴行、脅迫と解してさしつかえがなく、したがって、たとい強盗の犯意に基づく新たな暴行、脅迫を加えていないときでも、強盗罪の成立を肯定するのが相当であって、暴行、脅迫を行った際の具体的な犯意が異るからといって強盗の故意がなかったとして強盗罪の成立を否定するのは相当でない。
この裁判例は、被告人らが被害者に対して強姦をしようと考えて、暴行・脅迫を加えたところ、被害者が男性だったのでお金を奪うことにしたという事例に対する判断をしています。そして、暴行・脅迫により抵抗ができない状態にした後に、その状態を利用して財物を奪った場合には、強盗罪の成立を認めるのが相当であるとしています。
この裁判例の立場にたつと、ルフィはアルビダの船員が反抗抑圧に至る程度の暴行をおこなった後、その犯行抑圧状態を利用して小舟を要求し、結果的にこれを奪うに至っているのですから、ルフィには強盗罪が成立することになります。
もっとも、実際に刑事裁判になった場合には、窃盗罪なのか恐喝罪なのかそれとも強盗罪なのかで意見が分かれそうです。
4 コビーのために緊急避難?
こうしたルフィの強盗行為は、アルビダからの奴隷的拘束状態からコビーを解放させるためにおこなったとみることができます。アルビダは、コビーに対し「殺さない代わりに雑用係として働け」と発言するなどして、コビーを自らの支配下に入れていました。
そこで、緊急避難(刑法37条1項)が成立することにより強盗罪の成立が否定されるのではないかという点につき検討が必要です。
今回の強盗行為の場合、アルビダによるコビーの自由に対する現在の危難を避けるために船を提供させているといえます。また、避けようとした害はコビーの身体的な自由であるのに対し、生じた害は小舟という財産が問題となっているに過ぎません。コビーが自由を取り戻すためには、海に逃亡し、追手が来ないようにするということが必要となることも考慮すれば、ルフィの強盗行為には緊急避難が成立する余地があると思います。
5 まとめ
以上より、ルフィのアルビダに対する反撃行為には正当防衛が成立し、犯罪不成立になります。また、ルフィの「小舟をやれ」と命令する行為には緊急避難が成立し、犯罪不成立になります。