YouTuberのための法律講座 第4章 やってみた編

0 動画で解説をみる

1 やってみたとは

やってみたというのは、何かを行う動画を1つのカテゴリとしてみたものです。その種類は、たとえば、「歌ってみた」、「演奏してみた」、「踊ってみた」、「実験してみた」、「描いてみた」などと多岐に渡ります。

やってみた系の動画としては、たとえばこんな動画が挙げられます。

たくさんの男性YouTuberで恋ダンス踊ってみた
(はじめしゃちょー(hajime))
https://www.youtube.com/watch?v=V502qWGmLFk

やってみた系のメリットとしては、再生数の伸びしろにあります。企画や編集次第ではありますが、ヒットすれば1つの動画で100万回以上の再生も夢ではありません。また、やってみたの中でも「歌ってみた」や「踊ってみた」などのアイドル的な要素があるジャンルにおいては、固定ファンがつきやすいといえるでしょう。

他方で、やってみた系のデメリットとしては、準備に手間暇がかかる点にあります。たとえば、「歌ってみた」ですと実際に歌う歌の練習が必要でしょうし、「踊ってみた」ですとダンスの練習が必要ですし、「実験してみた」ですと器具などの準備が必要となることがあります。加えて、やってみた動画をつくる過程において、知らず知らずの間に法律に違反してしまうことがあります。そんなわけで、やってみた動画をつくるときに気をつけたい法律を学んでいきましょう。

2 やってみた動画をつくるときに気をつけたい法律・条例

<特に気をつけたい法律>
刑法
軽犯罪法
道路交通法

(1)迷惑行為は控えよう

人に対して迷惑をかける行為は、法律に違反することが多いです。たとえば、「ボコボコにしてみた」、「脅してみた」、「閉じ込めてみた」といった動画は、それぞれ、このような犯罪に該当することになるでしょう。

(傷害)
刑法第204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役または五十万円以下の罰金に処する。
(脅迫)
刑法第222条1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役または三十万円以下の罰金に処する。
(逮捕及び監禁)
刑法第220条 不法に人を逮捕し、又は人を監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

もしかすると、「人に迷惑をかける動画なんてつくらないから大丈夫」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。しかし、人に迷惑をかけているけど動画制作者は気づいていないなんてこともありますので、企画段階から慎重になることが必要だと思います。

(2)実際に迷惑をかけていなくても

刑法を学ぶと、犯罪はおおまかに、①個人的法益に対する罪、②社会的法益に対する罪及び③国家的法益に対する罪の3つに分類できることがわかります。法益というのは、法によって守られる利益のことを指します。社会や国の利益も法で守られていることは、要するに、個人に迷惑がかからなくても、社会や国からみて迷惑な行為は犯罪となることがあるのです。たとえば、「爆発させてみた」という動画において、引火しやすい物の近くで相当な注意をせずに爆発の様子を撮影した場合には、実際に他人に迷惑がかかっていなかったとしても、軽犯罪法1条9号違反となります。

(3)刑法とやってみた動画

刑法で定められている犯罪行為については、割と常識で判断できるものが多いです。たとえば、先ほど挙げた傷害罪・脅迫罪・監禁罪はやってはいけないということが常識化されていると言えます。他にも、常識で判断できる犯罪行為としては、以下のものが挙げられます。

放火罪(108~110条)
⇒他人の物を燃やしたり、自分の物を燃やして公共の危険を生じさせてはいけません。
住居侵入罪(130条)
⇒住居権者の同意なしに人の住居等に立ち入ってはいけません。
通貨偽造罪(148条)
⇒通貨を偽造してはいけません。
文書偽造罪(154条~161条)
⇒文書を偽造してはいけません。
公然わいせつ罪(174条)
⇒不特定または多数人にわかる形でわいせつな行為をしてはいけません。
強制わいせつ罪(176条)
⇒暴行または脅迫を用いてわいせつ行為をしてはいけません。相手が13歳未満の場合には、暴行または脅迫を用いていなくてもわいせつ行為自体をしてはいけません。
強制性交罪(177条)
⇒暴行または脅迫を用いて性交をしてはいけません。相手が13歳未満の場合には、暴行または脅迫を用いていなくても性交行為自体をしてはいけません。
殺人罪(199条)
⇒他人を殺してはいけません。
略取及び誘拐罪(224条~229条)
⇒暴行・脅迫・欺罔・誘惑を用いて人を連れ去ってはいけません。
窃盗罪(235条)
⇒他人の物を盗んではいけません。
強盗罪(236条)
⇒暴行・脅迫を用いて人の物を奪ってはいけません。
詐欺罪(246条)
⇒他人をだまして物を交付させてはいけません。
横領罪(252条)
⇒他人から預かっている物を自分の物にしてはいけません。
器物損壊罪(261条)
⇒他人の物を壊してはいけません。

さすがにしないとは思いますが、これらの犯罪行為そのものを動画のネタとすることは絶対にやめましょう。

(4)軽犯罪法とやってみた動画

軽犯罪法に定められている犯罪行為は、「えっ?それ犯罪なの?」と思うようなものも多く、あなどれません。ここでは、動画を制作するにあたって最低限知っておきたいものとしては、以下のものが挙げられます。

粗野・乱暴の罪(1条5号)
⇒映画館や飲食店などの公共の娯楽場や電車やバスなどの公共の乗物のお客さんに対して、場所柄をわきまえない言葉や行動をして迷惑をかけてはいけません。
火気乱用の罪(1条9号)
⇒相当の注意をしないで燃えやすい物の近くで火をたいてはいけません。
爆発物使用等の罪(1条10号)
⇒相当の注意をしないで爆発する物を使用してはいけません。
危険物投注等の罪(1条11号)
⇒相当の注意をしないで他人の身体や物に害を及ぼす危険のある場所に物を投げてたり注いだりしてはいけません。
称号詐称、標章等窃用の罪(1条15号)
⇒公務員であると偽ったり、学歴や資格を偽ってはいけません。
虚構申告の罪(1条16号)
⇒犯罪や災害がないのにそれをあると公務員に申し出てはいけません。
身体露出の罪(1条20号)
⇒公衆の目に触れるような場所で普通の人が不快に感じるような形で肌を露出してはいけません。
儀式妨害の罪(1条24号)
⇒儀式をいたずらなどで妨害してはいけません。
追随等の罪(1条28号)
⇒他人の進路に立ちふさがったり、他人に迷惑させるような形でつきまとってはいけません。
業務妨害の罪(1条31号)
⇒他人の業務をいたずらなどで妨害してはいけません。
はり札、標示物除去等の罪(1条33号)
⇒同意なく他人の家や建設物などにはり紙をしたり、他人の看板・はり紙・ポスターなどを除去したり、汚してはいけません。

いかがでしたでしょうか。意外と知らない犯罪も多かったのではないかと思います。

(5)道路交通法とやってみた動画

やってみた動画を制作する際には、外で収録をおこなうことも少なくありません。中には、道路を利用して収録するものもあるでしょう。道路においては、様々な行為が禁止されております。抽象的に言えば、道路において危険な行為や迷惑な行為をやってはいけないということになります。より具体的には、最低限以下のルールを知っておきましょう。

物件放置の禁止(76条3項)
⇒交通の妨害になるような方法で正当な理由なく物を道路に置いてはいけません。
酒酔いふらつきの禁止(76条4項1号)
⇒酒酔いの影響で道路において交通の妨害になるような程度にふらついてはいけません。
寝そべり等の禁止(76条4項2号)
⇒道路において交通の妨害となるような方法で寝そべったり、座ったり、立ち止まったりしてはいけません。
球戯等の禁止(76条4項3号)
⇒交通のひんぱんな道路において、球戯・ローラースケート・アイススケート・バドミントン・羽つき・凧あげ・鬼ごっこ・竹馬乗り等をおこなってはいけません。
物件を投げる等の禁止(76条4項4号)
⇒石・ガラス瓶・金属片などの道路上の人や車両を傷つけるおそれのある物を投げてはいけません。
飛び乗り、飛び降りの禁止(76条4項6号)
⇒道路において進行中の自動車等に飛び乗ったり、そこから飛び降りたりしてはいけません。

3 こんな動画は大丈夫?

(1)フリーおっぱい

Q 私はとにかく有名になりたいのですが、なかなか再生数が伸びなくて焦っています。そこで、人の多い公園で自分の胸を無料で服の上から揉ませる様子を収録して、公開したいと考えています。絶対再生数が伸びるいい企画だと思うのですが、このような動画に何か法的な問題はありますか。
A 刑事的には、各都道府県の迷惑防止条例(卑わいな言動)に違反する可能性があります。民事的には、特に問題はありません。

<解説>

1 過激化する動画

インターネット上では、毎日おびただしい数の動画が公開されています。そんな中で自分の動画をたくさんの方に視聴していただくのはとても大変なことです。こうした状況ですから、注目を浴びようとして、過激な動画制作に走る動画クリエイターが後を絶ちません。しかし、仮にその動画がヒットしたとしても、人気になれるとは限りません。継続的に視聴者のニーズを満たす動画をアップすることこそが、人気クリエイターへの近道なのだと思います。そして、継続的に動画をアップするためには、法的なリスクは避ける必要があります。では、この動画がどういう法的リスクを負っているのかをみてみることにしましょう。

2 刑事責任

まず、公然わいせつ罪が成立するかどうかを検討してみましょう。公然わいせつ罪の要件は以下の通りです。

①公然
②わいせつ行為

それを本件にあてはめるとこうなります。

①人の多い公園という不特定・多数人の認識しうる場所で企画を実行するわけですから、公然の要件に該当します。
②わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいいます。そして、性行為や性器の露出はわいせつであるとされますが、乳房の露出はわいせつに当たらないとされています。フリーおっぱいは性行為としての側面が乏しく、また、性器の露出を伴うものではないため、わいせつの要件に該当しません。

そんなわけで、公然わいせつ罪は成立しないと考えられます。とはいえ、1つの犯罪が成立しないというだけで、他の犯罪の成立可能性も検討する必要があります。本件では、各都道府県の迷惑防止条例に違反するかどうかを検討しなくてはなりません。たとえば、東京都ですと、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」にこんなルールが定められています。

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条1項 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
1号 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
2号 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
3号 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

条文を読んでみるとおかわりになると思いますが、1号は痴漢行為、2号は盗撮行為を禁止しています。本件で問題になるのは3号です。そして、3号の要件は以下の通りです。

①公共の場所又は公共の乗り物
②卑わいな言動

それを本件にあてはめるとこうなります。

①公園は基本的に各自治体が所有・管理し、誰でも利用できる場所ですので、公共の場所の要件に該当します。
②他人に胸を揉ませることは、それを見た人にとって性行為を想起させるものですので、卑わいな言動の要件に該当します。

そんなわけで、東京都迷惑防止条例5条1項3号に違反することになるでしょう。なお、公然わいせつにいう「わいせつ」よりも「卑わいな言動」のほうがより広い範囲を取り締まるものと考えられているため、公然わいせつ罪が成立しない場合でも、卑わいな言動に該当するかどうかを別途検討しなければならなかったのです。このように、1つの行為の適法性を判断するにあたって複数の条文を検討しなければならないことが多いのは法律の特徴といえるでしょう。

3 民事責任

無料で胸を揉ませることでの民事上の責任は考えにくいです。ちなみに、有料で胸を揉ませる場合には、後から金銭の請求をしても公序良俗違反(民法90条)で請求が認められないことがあり得るという問題はあります。

(2)カラオケで歌ってみた

Q 私は将来有名歌手になりたいと思って活動を開始しました。自分で言うのもなんですが、歌唱力は他人に負けない自信があります。しかし、知名度がまだまだ足りませんし、軍資金もありませんので、費用のかからない方法で知名度を上げていきたいです。そこで、私がカラオケで歌う様子を動画にして、YouTubeにアップしようと考えています。カラオケで歌う動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、著作権法に違反します。民事的には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

<解説>

1 カラオケ動画の行方

過去には、YouTubeで曲名を検索するとカラオケ動画がずらりと並んでいた時期がありました。現在では、YouTubeで曲名を検索しても、カラオケ動画はあまり結果に表れません。このように、カラオケ動画が消えたのは、実は一つの事件の判決がきっかけでした。その事件では、とある男性がカラオケ音源を用いて歌っている様子を撮影した動画をYouTubeにアップロードしたところ、通信カラオケメーカーがそのような動画は著作隣接権を侵害するとして動画の消去等を求めて訴訟を提起しました。その事件において通信カラオケメーカーが勝訴しました(※)。その通信カラオケメーカーは、YouTubeだけで年間12万件もの削除依頼を出しているようです。最近カラオケ動画をあまり見かけないのは、こうした訴訟や削除依頼といった行動の成果ということなのでしょう。
では、今はあまり見かけないカラオケ動画が法律に違反するのかどうかを検討していくことにしましょう。

※東京地判平成28年12月20日

2 刑事責任

カラオケ動画が著作権等侵害罪にあたるかどうかを検討しましょう。著作権等侵害罪の要件は以下の通りです。

著作権、出版権、著作隣接権の侵害

それを本件にあてはめるとこうなります。

カラオケ音源は著作隣接権に該当し、その音源を動画内で流すことは同権利の送信可能化権を侵害したことになるので、著作隣接権の侵害の要件に該当します。

ちょっとわかりずらいかもしれませんね。著作権は著作物(思想または感情を創作的に表現したもの)の創作者を保護しますが、著作隣接権は著作物をみなさんに伝えるために重要な役割を果たす実演家(歌手など)、レコード製作者、放送事業者および有線放送事業者について一定の保護を与えるものです。たとえば、歌手は、著作物であるところの音楽を歌いますが、歌うことによって新しい著作物を創り出しているわけではありません。しかし、誰がどのように歌うかによって、音楽は全く別のものになることがしばしばあります。そこで、歌うことに著作物の創作に準ずる創作行為としての意味を見い出し、著作隣接権として保護しています。カラオケの音源を制作した場合、それを制作したメーカーにはその音源についての著作隣接権が認められるのです。そして、そうした権利の認められる音源をメーカーの承諾なく動画内で流すわけですから、著作者隣接権を侵害するといった具合です。

ただし、著作権侵害の犯罪は親告罪となっているので、被害者等が告訴の手続をとらない限りは、刑事裁判となりません。

3 民事責任

民事責任について別途検討しましょう。不法行為の要件は以下の通りです。

①権利・法益侵害
②故意・過失
③損害
④因果関係

それを本件にあてはめるとこうなります。

①カラオケ動画は2刑事責任で見たとおり著作隣接権を侵害しますので、権利侵害要件を満たします。
②カラオケ音源が動画内で流れていることを認識・認容しながら動画を撮影・公開したわけですから、故意の要件を満たします。
③カラオケ音源を無許可で使用することで使用料相当額の損害が発生しています。
④カラオケ音源を無許可で使用することと使用料相当額の損害が発生したこととの間には因果関係が認められます。

そんなわけで、不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。それだけではなく、たとえば、動画の差止請求が認められたり、不当利得返還請求が認められたりすることがあります。

ここまで見てきたように、著作権侵害によって刑事責任や民事責任が発生しますが、動画クリエイターにとって最も恐ろしいのは、アップロードサイトのアカウントが停止されることかもしれません。現に、著作権侵害を理由としてアカウントが停止される例は少なくありません。動画を公開する前に、他人の著作権を侵害していないかをチェックしておく必要があるのです。

(3)物をぶっ壊してみた

Q 私はストレスがたまると家にある物を壊して発散しています。そこで思いついたのですが、今度から物を壊すときにその様子を撮影して動画にしようと考えています。自分の家にある物を壊す動画は何か法的な問題がありますか。
A 壊したものが自分の物であれば、刑事・民事ともに法的な問題はありません。他方、壊したものが家族や他人の物であって、所有者の同意なく壊した場合には、刑事的には器物損壊罪が成立し、民事的には不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

<解説>

1 物を壊して炎上?

過去には、やってみた系YouTuberがゴルフクラブを曲げたときに折れてしまったケースや、ゲーム実況者がコントローラーを破壊したケースなど、物を壊してしまった動画は一定数存在します。そんな動画の中には、意図せず炎上してしまうケースもあります。おおよそみなさんは、「物を大事にしましょう」と言われて育ってきたのではないかのではないかと思いますが、物を壊す動画は法律に違反するのでしょうか。検討してみることにしましょう。

2 刑事責任

物を壊すといっても、その物が自分の物なのか他人の物なのかで話が変わってきます。まず、自分の物だった場合を検討してみましょう。

自分の物を壊すこと自体を処罰する法律はありません。自分がその物の所有者である以上、その物をどうするかは自分で決めていいということですね。ですので、自分の物を壊す動画を公開しても、物を壊したことによって刑事責任を問われることはありません。

他方、他人(家族を含みます。)の物をその人の同意なく壊した場合には、器物損壊罪が成立するかを検討する必要があります。器物損壊罪の要件は以下の通りです。

①他人の物
②損壊

それを本件にあてはめるとこうなります。

①他人の物を壊したわけですから、他人の物の要件に該当します。
②壊すことにより物理的に物の全部を害したわけですから、損壊の要件に該当します。

そんなわけで、他人の物を勝手に壊すと器物損壊罪が成立します。他人の物を壊してはいけないことは常識的に判断できますが、それが犯罪行為だということを知っておくことが重要です。単なるマナー違反では済まないということですね。

3 民事責任

刑事責任と同様に、壊した物が自分の物なのか他人の物なのかで話が変わります。

刑事責任の検討の際にも述べましたが、自分の物というのは、自分がその物の所有権を持っているということです。そして、所有権は、対象となる物を自由に使用・収益・処分することのできる権利です。自分の物を壊すことは、処分の一態様として認められるというわけです。

他方、他人の物をその人の同意なく壊した場合には、不法行為が成立するかを検討する必要があります。不法行為の要件は以下の通りです。

①権利・法益侵害
②故意・過失
③損害
④因果関係

それを本件にあてはめるとこうなります。

①他人の物を壊すことによって他人の財産権を侵害しているため、権利侵害要件を満たします。
②他人の物を壊すことを認識・認容しつつ壊したわけですから、故意の要件を満たします。
③物が壊れたことによって、その物の市場価値分の損害が生じているため、損害の要件を満たします。
④他人の物を壊したことと、その物の市場価値分の損害が生じたこととの間には因果関係が認められます。

そんなわけで、他人の物を勝手に壊すと不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

なお、今回の事例とは少し関連性の薄い話しかもしれませんが、妻が夫の大事にしている物(プラモデルなどの場所をとるけど実用性の少ない物)を勝手に捨ててしまって離婚や損害賠償といった問題になったという体験談をちらほら見かけます。たとえ夫婦であっても、配偶者の物を勝手に処分してはいけません。たとえ法律的な問題にはならなかったとしても、夫婦の間に溝がうまれるおそれがありますので、よく話し合ってその物をどうするかの方針を決めてほしいものです。

(4)高層建物から物を落としてみた

Q 私はずっとやってみた系の動画を投稿しており、最近ようやく人気が出てきました。ここで一気に加速したいので、ちょっと攻めた動画の制作を考えております。この頃は実験系の動画が流行っているので、高層建物から耐久性の高い時計を落としたら壊れるのかどうかを検証する動画を制作したいです。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、軽犯罪法1号11条(危険物投注等の罪)に該当する可能性があります。人に当たってケガを負わせた場合には傷害罪(刑法204条)や過失傷害罪(刑法209条1項)に該当します。民事的には、人に当たってケガを負わせた場合には不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

<コメント>

相当の注意をしていれば危険物投注等の罪に該当しないので、適法に動画を撮影・公開することも可能ではあります。しかしながら、物を落下させる際に人が通らないように高層建物とその周辺を貸し切って行う必要がありますので、費用的には困難を伴います。私個人としては、物を壊す動画より物を生かす動画を制作してほしいと思います。

(5)惣菜をつんつんしてみた

Q 私はイタズラ動画を中心に動画を公開している動画クリエイターです。今度、家の近くの店に行ってその店の売り物である惣菜をツンツンしたら店員がどんな対応をするかという企画のイタズラ動画を撮影し公開したいと考えております。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、業務妨害罪(刑法234条)および器物損壊罪(刑法261条)に該当します。人に当たってケガを負わせた場合には傷害罪(刑法204条)や過失傷害罪(刑法209条1項)に該当します。民事的には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

<コメント>

過激さを追求する動画は競合が少ないため、再生数の伸びが期待できます。しかし、他方で、そうした動画は法律に違反することも多く、リスクが大きいです。「せっかく人気がでてきたのに逮捕されて動画を出せない…」なんてことにならないように、最低限法律には違反しない動画をつくってほしいものです。

(6)警察官の前で白い粉を落としてみた

Q 私はドッキリ動画を中心に動画を公開している動画クリエイターです。最近、警察絡みの動画の再生数が伸びているので、警察官にドッキリをしかければ大きな反響を呼ぶのではないかと思いました。そこで警察官の前でグラニュー糖をわざと落として、「しまった」という顔をしてから逃走しようと考えています。こうすれば、警察官は違法薬物だと勘違いして全力で私を追ってくるはずです。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、業務妨害罪(刑法233条)に該当します。民事的には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

<コメント>

2017年に大変話題となった動画の1つが白い粉ドッキリ事件です。この動画の撮影者は、実際に逮捕され、刑事裁判にまで発展しております(※)。こうなるともう取り返しがつきません。こうなる前に一歩踏みとどまる勇気が大事です。

※第一審判決平成29年5月21日

(7)女性の露出動画

Q 私は将来、なにがなんでも有名になりたいと考えています。そのためには手段を選びません。最近では、YouTuberが知名度を上げているので、私もYouTuberとして有名になろうと思います。私は女性なので、最初は身体を露出する動画を公開することで話題を集めたいです。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、性器を露出した場合にはわいせつ電磁的記録頒布罪(175条1項後段)に該当します。それ以外の場合には法的な問題はありません。民事的には、法的な問題はありません。

<コメント>

判例は、「わいせつ」とはいたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものだとしています。ですが、具体的な場面で何が「わいせつ」にあたるのかを判断するのは非常に難しいです。現在では、動画のわいせつ性を判断するにあたっては、性器の露出があるかどうかで線引きがされております。AVなどを鑑賞すると、性器部分にモザイクがかかっているのは、このような理由からです。

(8)道路で露店を開いてみた

Q 私は、最近人気が出てきた動画クリエイターの一人です。数日前に目標としていた数字を突破したので、これまで支えてくれたファンの方々が楽しめるようなオフ会を開こうと考えています。その内容としては、道路上にすべて当たりの祭りクジ屋を開いて、オフ会に来てくれたファンの方々にクジを引いてもらおうと思っています。この様子は動画でも撮影し、公開する予定ですが、このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、道路使用許可(道路交通法77条1項)を受けていない場合には、道路交通法違反の罪に該当します。道路使用許可を受けている場合には、法的な問題はありません。民事的には、道路使用許可(道路交通法77条1項)を受けていない場合には、不当利得返還請求(民法703条・704条)が認められる可能性があります。道路使用許可を受けている場合には、法的な問題はありません。

<コメント>

道路使用許可の必要な行為は次の①から④の行為です。

①道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人
②道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者
③場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
④前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

そして、④の公安委員会の定める要許可行為は各都道府県ごとに異なりますが、おおよそ、みこし等を出すこと、撮影会等を行うこと、集団行進等をすることなどが要許可行為として定められています。

屋外の撮影の際には、許可が必要な行為かどうか警察署に確認するべきでしょう。

(9)廃墟探索

Q 私は、以前から廃墟の雰囲気が好きで、休日にはよく廃墟に出向いています。最近、インターネット上にも同じような趣味の方がたくさんいることを知りました。そこで、廃墟の様子を撮影し、公開すれば面白いのではないかと考えました。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、その廃墟が立入禁止場所であれば立入禁止場所侵入罪に該当します(軽犯罪法1条32号)。また、廃屋に入った場合には、建造物侵入罪(刑法130条)に該当する可能性があります。民事的には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

<コメント>

どうしても廃墟が好きで…という方は、管理者の許可を得て立ち入るようにしましょう。また、廃屋が突然崩壊することもあり得ますので、軽装で廃屋に入るのは危険です。廃墟や廃屋に入る場合には、十分な準備をしてからにしましょう。

(10)マジック技法の種明かし

Q 私は、マジシャンとして都内のバーなどを回って生計を立てています。基本的に夜に仕事をするのですが、だんだんと体にガタがきているような気がしています。どうにかして朝型の生活に切り替えたいので、マジックの種明かし動画をつくってそちらで生計を立てられればと考えています。このような動画は何か法的な問題がありますか。
A 刑事的には、法的な問題はありません。民事的には、不法行為に基づく損害賠償請求や債務不履行に基づく損害賠償が認められる可能性があります。

<コメント>

師匠から教わった門外不出のものの種明かしをすることは師匠との間の契約違反となる可能性があります。また、本などで知ったマジックの種明かしをすることは不法行為となり得ます。マジシャンによる種明かし動画はマジック業界からは疎ましく思われるでしょうから、法律違反の有無を問わず、公開するには相当な覚悟が必要となるでしょう。