不法行為とは? 日常生活のトラブルで例えながら解説します

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1 日常生活と不法行為

交通事故にあってケガを負わされる、殴られてケガを負わされる、物を壊される、医療ミスで容態を悪化させられる、週刊誌の記事で名誉を傷つけられる、SNSの投稿でプライバシーを侵害される、騙されてお金を取られる、隣家の失火で家を燃やされるといった日常生活のトラブルは法律的には不法行為(民法709条)の問題となります。私は弁護士ですが、日常生活のトラブルについて相談を受けたときは、まず不法行為となるかどうかを頭の中で検討しています。それくらい不法行為というルールはよく利用される重要なルールなのです。今回は、そんな重要なルールの基礎を学んでいきましょう。

2 条文と4つの要件

日常生活のトラブルなどで他人の権利を侵害した場合、不法行為責任が成立することがあります。まず、不法行為の条文を確認することにしましょう。

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

この条文をみると、4つの要件が定められていることがわかります。つまり、①故意又は過失、②権利又は法益侵害、③損害の発生、そして④因果関係です。ここで疑問を抱かれた方がいらっしゃるかもしれません。「①~③まではわかるけど、④はどこに書かれているの?」と。条文上、「因果関係」という文字は書かれていませんが、「これによって生じた損害」と書かれておりますので、故意・過失による行為と損害との間には原因と結果の関係が必要になると考えられます。ですので、④因果関係が要件となるのです。では、要件を1つずつみていくことにしましょう。

3 故意・過失

(1)故意

まず、①故意・過失です。故意というのは、結果発生を認容することという意味です。結果発生というのは、殴ってケガをさせるケースではケガをさせるという結果ですね。そして、認容というのは、「結果が起こることはわかるけど、それでいいや」という状態です。たとえば、「勢いよく鼻を殴ったらあの人の鼻の骨が折れるけど、まぁいいや」という心境で投稿することは、傷害という結果が発生することを知りつつその結果を容認していますから、故意が認められます。ちなみに、結果が必ず生じると思っている必要まではありません。結果の発生の可能性があることをわかっていながらそれを容認することでも故意が認められます。たとえば、「殴ったらケガをする“かもしれない”けども、まぁいいや」という心境で投稿する場合にも故意が認められます(未必の故意と呼ばれています。)。ここまで故意を説明しましたが、よくわからないという方は、故意を「わざと」という程度の意味で押さえておいてください。

(2)過失

過失というのは、結果発生の予見可能性があるにもかかわらず、結果の発生を回避するために必要とされる措置を講じなかったことという意味です。結果の予見可能性を前提とする結果回避義務違反などといわれることもあります。たとえば、友達がSNS上にアップロードした写真画像をダウンロードし、自分のSNSに投稿したが、友達が著作権者ではなかったような場合を想定しましょう。この場合、著作権を侵害するという結果を予想することはできたはずなのに、友人に写真の撮影者について質問し、友人が撮影者でなかったときには投稿を控えるなどの行動をとらなかったとして過失が認められる可能性があります。ここまで過失を説明しましたが、よくわからない方は、過失を「不注意」という程度の意味で押さえておいてください。

4 権利・法益侵害

次に、②権利又は法益侵害ですが、これらについてはあまり解説することがありません。この要件が認められないことはあまり多くありません。ただし、たとえば自己破産をした人がクレジットカードをつくる権利を主張したような場合には、そのような権利までは認められないとして主張を退けられることとなるでしょう。あくまで法律上認められる権利や法益である必要があるのです。

5 損害

そして、③損害です。損害というのは、“不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額”を意味します。要するに、不法行為がなかったというパラレルワールドを想定し、現実世界とパラレルワールドの差を金額であらわしたものを損害とするのです。

たとえば、一日に100人のお客さんが訪れるラーメン屋があるとして、「あのラーメン屋は賞味期限切れ食材ばかり使用している」との虚偽の情報をSNSに投稿し、その後1か月間、そのラーメン屋のお客さんが半減したとしましょう。このとき、このような業務妨害がなく、一日に100人のお客さんが訪れるというパラレルワールドを想定しつつ、このような業務妨害を受け、一日に50人のお客さんしか訪れなくなった現実世界との差を金銭算定します。

仮に、客一人あたりの利益が1000円だったとすると、

1000円×50人×30日=150万円

このように計算し、150万円が今回の損害だということになります。

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その後、たとえば、客一人あたりの利益に対応する費用が500円で、その分の出費を抑えることができたとすると、75万円(500円×50人×30日=75万円)を損害から差し引きます。

6 因果関係

最後に、④因果関係です。一般に、加害行為(故意・過失のある行為)と損害との間に因果関係が必要であると理解されています。そして、因果関係が認められるためには、加害行為がなかったら損害が発生しなかったという関係があるだけでは足りず、その加害行為をもって損害発生の原因だとすることが法的にみて相当であると認められる必要があります。簡潔にまとめると、ただの原因と結果の関係でなく、相当因果関係が必要だとするのが判例の立場なのです。

たとえば、SNSでXさんの名誉を傷つける投稿をして、Xはうつ病になり最終的には自殺してしまったとしましょう。このとき、Xが受けた精神的苦痛に対応する慰謝料や、死亡による逸失利益などを損害として挙げることができます。もっとも、自殺により生じた損害まで賠償させることは相当でないとして、逸失利益について因果関係を否定することがあります。よくわからないという方は、とりあえず、生じた損害の全てが賠償されるというわけではないということを理解しておいてください。

7 損害賠償請求権

ここまでに書いてきた4つの要件を満たせば、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生します。わかりやすくいえば、被害者が加害者に対してお金を請求できます。請求できる金額は、被害額すべてというわけではなく、損害額と相当因果関係が認められる範囲に限られます。

被害者にも落ち度があれば、過失相殺(722条2項)がおこなわれることにより、請求できる金額が減ることがあります。たとえば、交差点で一時停止義務に違反した車とスピード違反の車が衝突したような場合、どちらの車の運転手にも不注意があったといえます。この場合は、スピード違反をした側の運転手に3割程度の過失があったとして、請求できる額が3割程度減ることが多いです。

さらに、被害者が不法行為によって利益を受けたような場合には、損益相殺という調整がされます。すなわち、その利益の額は損害から差し引かれることになります。たとえば、被害者が死亡してしまった場合にはそれ以降の生活費が不要となりますが、この生活費分は損益相殺の対象となります。

加えて、不法行為により発生する損害賠償請求権の時効は、原則として、損害と加害者を知ってから3年です。3年という期間は意外と早いものですので、被害を受けた方は十分に注意をしてくださいね。

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ここで解説したことは、不法行為の基本の「キ」にあたる部分です。もっと学びたい人は、民法の不法行為の本を紐解いてみてくださいね。