名誉毀損罪とは?どんなときに成立する?弁護士が詳しく解説します

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1 はじめに

名誉毀損の「毀損」という漢字は普段見慣れないかもしれません。毀損というのは、利益・体面などをそこなうことという意味です。それでもわかりづらい方は、ここでは、毀損というのは“傷つく”という程度の意味で押さえておいてください。つまり、他人の名誉を傷つけた場合、法的な責任を負う可能性があるのです。

名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を意味します。一言でいえば社会的な評価のことです。たとえば、「Xは非常に優秀な研究者として業界で名が通っている」のであれば、それはXが名声について素晴らしい評価を受けていることになります。ほかにも、「Xは信頼できる人物だ」と言われているのであれば、信用について良い評価を受けていることになります。そうした社会的な評価を傷つけた場合に、名誉毀損の問題となります。

2 どんな責任を負う?

(1)刑事責任

刑法には、他人の名誉を傷つけた場合の法的な責任がルール化されております。

刑法第230条第1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

すなわち、

  • 公然と
  • 事実の摘示をして
  • 名誉を毀損した

場合に名誉毀損罪という犯罪が成立し、

  • 3年以下の懲役
  • 3年以下の禁錮
  • 50万円以下の罰金

のいずれかの刑罰が科せられることがあるのです。詳しい話は3以降でしますね。

(2)民事責任

民法にも、名誉毀損に関連する条文があります。ですが、今回は刑事責任について解説をしますので、損害賠償や差止めなどの民事責任を知りたい方は以下の記事を参照してください。

民事上の名誉毀損とは? 慰謝料の金額はどれくらい?弁護士が詳しく解説します

3 名誉毀損罪はどんな場合に成立する? 名誉毀損罪の要件とは?

(1)名誉毀損罪の要件

上でみた名誉毀損罪の条文をまとめると、①公然性、②事実摘示、③名誉毀損の3つがその要件ということになります。また、刑法は原則として故意でおこなった犯罪のみを処罰するものですので、④故意も要件となります。では、それぞれ確認していきましょう。

①公然性というのは、摘示された事実を不特定又は多数の人が認識しうる状態を意味します。不特定というのは、街で通りすがった人やお店で居合わせた人などのように、身元がはっきりとしていない人を指します。不特定の人が見聞きできれば、それが少数の人であっても公然性の要件を満たします。逆に、多数の人が見聞きできれば、それが特定の人であっても公然性の要件を満たします。

たとえば、

・Twitterに投稿する
・学校で叫ぶ
・家の壁に張り紙をする

といった行為は、その内容を不特定の人が見聞きできることになります。そのため、公然性の要件を満たします。また、少数特定の人が見聞きできるにとどまる場合でも、それが多くの人に伝わる可能性があるときには、公然性の要件を満たすことになります。ちなみに、インターネット上での投稿は基本的には投稿内容を誰でも閲覧できるような状態に置くことになりますので、基本的には公然性の要件を満たすことになります。

②事実摘示については、意見や論評を述べた場合にはこの要件に該当しないことが重要です。公知の事実(みんなが知っている事実)であっても、それを摘示することでさらに社会的な評価を下げるおそれがある場合にはこの要件に該当します。また、誰に対する事実の摘示なのかが明らかになっていることが必要です。

③名誉毀損は、社会的な評価を下げるものかどうかで判断します。実際に社会的な評価が下がったことまでは必要がありません。

これらの要件について具体的にみてみましょう。

公然性Yと2人きりの部屋の中で「Aは窃盗の前科持ちだよ」と言った× 少数かつ特定人なので公然性要件を満たさない
社員数が25名の会社の掲示板に「Aは窃盗の前科持ち」との文章を掲示した〇 特定人だが多数人が見れるため公然性要件を満たす
人通りの少ない道の電柱に「Aは窃盗の前科持ち」とマジックで記載した〇 少数だが不特定の人が見れるため公然性要件を満たす
事実摘示「Aは馬鹿だ」と言った× 事実ではなく意見であるため事実摘示要件を満たさない
「大阪に住む人はみんな何かの犯罪をしている」と言った× 誰に対する事実の摘示なのかが明らかでないため事実摘示要件を満たさない
「Aは窃盗の前科持ちだよ」と言った〇 事実摘示要件を満たす
名誉毀損「Aは窃盗の前科持ちだよ」と言った× 窃盗の前科持ちという事実は、過去に犯罪行為をした悪い人という印象を与え、社会的評価を下げるものなので名誉毀損要件を満たす。

このような感じで判断することになります。

ところで、これらの要件を満たす場合に必ず名誉毀損罪になるかといえば、そうではありません。次に記載する刑事責任を免れるための要件を満たすことで、名誉毀損罪とならないのです。

(2)名誉毀損罪の成立を免れるための要件

名誉毀損罪については真実性の証明に成功することにより刑事責任を免れることができます。次の条文をご覧ください。

第230条の2第1項 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

①事実の公共性、②目的の公益性、③真実性の証明の要件を満たす場合には、違法ではないとして名誉毀損の責任を免れることができます。また、次の判例もご覧ください。

最高裁昭和44年6月25日
刑法230の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。

つまり、上記の①事実の公共性、②目的の公益性に加えて③´相当性の要件を満たす場合には、故意がないものとして名誉毀損の責任を免れることができます

たとえば、「建築会社のX社は耐震基準を満たさない欠陥住宅を量産している」とSNSに投稿したとしましょう。このような投稿はX社の名誉を毀損する内容となっていますが、耐震基準についての鑑定書を提出するなどして真実性の抗弁(①②③)の要件を満たすか、専門家の鑑定書の内容を信じたとして相当性の抗弁(①②③´)の要件を満たせば投稿者は名誉毀損罪の責任を免れることができます。

①事実の公共性については、社会一般の利害に関係することをいいます。たとえば、「建築会社のX社は耐震基準を満たさない欠陥住宅を量産している」という投稿は、住宅の購入を検討する者にとっては重要な情報を、また、入居者の生命・身体という重要な利益にかかわる情報を提供していることから、社会一般の利害に関係するといえるでしょう。他方で、「大企業社長のXが現在不倫をしている!」という投稿は、単に公衆の好奇心を満たすだけの情報ですので、社会一般の利害に関係しないといえるでしょう。

②目的の公益性については、条文上は「専ら公益を図る目的」という表現になっていますが、主たる動機・目的が公益を図ることであれば目的の公益性の要件を満たすと考えられています。たとえば、「建築会社のX社は耐震基準を満たさない欠陥住宅を量産している」という投稿ですと、住宅の購入を検討するすべての者に対して重要な情報を提供していますので、主たる動機が公益を図る目的であると認められやすいでしょう。他方で、X社のライバル会社からお金をもらって上記投稿をした場合には、主たる動機が公益を図る目的であるとは認められないことが多いでしょう。

③真実性の証明の要件が認められるためには、投稿した事実が真実であることを証明しなければなりません。つまりは、様々な証拠をもって、裁判の場において、投稿した事実が真実であると裁判官に思わせる必要があるのです。ただし、投稿した事実のすべてが真実であることの証明が必要というわけではなく、投稿した事実のうち重要な部分についての真実性が真実であることの証明があれば足ります。

③´相当性については、情報源・取材源が確かなものかどうか、裏付取材が十分になされているかどうか、名誉毀損の対象となった者やキーマンへの直接取材が試みられているかどうかなどの事情を総合的に考慮して判断されます。

ここまで難しかったかもしれませんが、要するに、裁判で摘示した事実の内容が真実だと証明できた場合や、摘示した事実の内容についてしっかりと裏付調査ができていたと認められた場合には、名誉毀損の責任を免れることができるということなのです。

(3)真実性の証明に関する特別ルール

第230条の2第2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
第230条の2第3項 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2項は、刑事裁判になっていない者の犯罪事実に関する事実を投稿した場合には、①の要件を自動的に満たすことを定めています。これは、起訴前の犯罪行為についての情報は捜査のきっかけになるなど公共的な性格を持つからだと言われています。

3項は、公務員や選挙の立候補者に関する事実を投稿した場合には、①②の要件を自動的に満たすことを定めています。これは、どのような目的を持って公務員に関する事実を適示したとしても、公務員の適性を検討するための資料を提供するという意味での公共的な性格を持つからだと言われています。

4 親告罪

ところで、名誉毀損罪に関してはこんな条文があります。

第232条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

名誉毀損罪は、232条と同じ章(第34章「名誉に対する罪」)。にありますので、告訴がなければ公訴を提起できません。

告訴というのは、犯罪の被害者その他一定の関係者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追ないし処罰を求める意思表示をいいます。簡単にいえば、「こんな犯罪があったので刑事裁判にしてください」と警察や検察に申し出ることです。

公訴というのは、国家刑罰権の発動を求めて、その発生原因となる特定の刑事事件について裁判所の審理および判決を求める意思表示のことをいいます。難しいですが、簡単にいえば刑事裁判をすることです。すなわち、名誉毀損罪は、告訴という手続をとらなければ刑事裁判にはなりません。それどころか、実際上は告訴がなければ捜査すら行われません。

なお、告訴のサンプルを見たい方は以下の記事をご参照ください。

Q&A 名誉毀損罪の告訴状の書き方を教えてください

5 効果としての刑罰

刑事裁判において名誉毀損罪となった場合、3年以下の懲役、3年以下の禁固、50万円以下の罰金の中から刑罰が下されます。懲役というのは、拘禁によって受刑者の自由をはく奪することを内容とする刑罰で、刑務作業が科されます。簡単にいえば、刑務所に入って決められた作業をしないといけないという刑罰です。禁錮というのは、拘禁によって受刑者の自由をはく奪することを内容とする刑罰で、刑務作業が科されません。簡単にいえば、刑務所に入っているだけの刑罰です。罰金というのは、一定額の金銭を徴収することを内容とする刑罰です。簡単にいえば、いくらかお金を払えばおしまいの刑罰です。