民事上の名誉毀損とは? 慰謝料の金額はどれくらい?弁護士が詳しく解説します

1 はじめに

名誉毀損の「毀損」という漢字は普段見慣れないかもしれません。毀損というのは、利益・体面などをそこなうことという意味です。それでもわかりづらい方は、ここでは、毀損というのは“傷つく”という程度の意味で押さえておいてください。つまり、他人の名誉を傷つけた場合、法的な責任を負う可能性があるのです。

2 民事責任と刑事責任

(1)民事責任

民法には、名誉毀損に関連する条文があります。

民法第723条 他人の名誉を損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

この条文を読むと、条文中に「名誉」や「毀損」といった単語が登場しているのがわかると思います。この条文は、名誉毀損が不法行為(民法709条)になりうることを当然の前提として、損害賠償請求以外の解決手段を認めたものです。大事なのでもう一度言うと、名誉毀損は民法上の不法行為となりうるのです。せっかくなので、不法行為についての条文もみておきましょう。

民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

すなわち、

  • 故意または過失によって
  • 他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、
  • これにより損害が生じた

場合に

  • 損害を賠償する責任(損害賠償責任)

を負うとされています。詳しい話は3以降でしますね。

(2)刑事責任

刑法には、名誉毀損罪の条文があります。ですが、今回は民事責任について解説をしますので、名誉毀損罪の要件や刑罰などの刑事責任を知りたい方は以下の記事を参照してください。

名誉毀損罪とは?どんなときに成立する?弁護士が詳しく解説します

3 どんな場合に責任を負う?

(1)名誉毀損にいう「名誉」とは?

名誉というのは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を意味します。たとえば、「Xは非常に優秀な経営者として業界で名が通っている」のであればそれはXが名声について素晴らしい評価を受けていることになります。

(2)不法行為の要件と名誉毀損

2でも確認した通り、名誉毀損は民法上の不法行為の要件を満たす場合に、損害賠償などの請求をすることができます。不法行為の要件は以下の通りでした。

  • 故意または過失によって
  • 他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、
  • これにより損害が生じた

不法行為の要件については、まとめると、①故意又は過失、②権利又は法益侵害、③損害の発生、④因果関係の4つとなります。「どこから因果関係の要件が出てくるの…?」とお感じの方は、以下の記事を参照してみてください。

不法行為とは? 日常生活のトラブルで例えながら解説します

このうち、名誉が「他人の権利または法律上保護される利益」にあたることについては問題がありません。

このような名誉が侵害されたと認められるには、被害者の社会的な評価を低下させたと認められる必要があります。そして、表現内容が社会的な評価を低下させるものかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすることになります。たとえば、「X社はブラックだ」という投稿をしたとき、これを国語的な意味で理解すると「X社は黒だ」という意味になり、何のことを言っているのかサッパリわかりませんが、普通の読者の読み方を基準とすると「X社の労働環境は劣悪だ」という意味になり、法人の社会的な評価を低下したと認められる可能性が生じます。

被害者の社会的な評価を低下させたと認められるためには、表現内容の対象が特定されていなければなりません。たとえば、「関西人は下品だ」などと投稿する場合、具体的に誰のことを述べているのかを特定できず、その投稿内容が具体的な誰かの社会的評価を下げたとはいえないため、名誉を毀損したことにはなりません。

また、故意過失がない場合や、損害が発生していない場合には、不法行為の要件を満たしませんので損害賠償責任を負いません。

(3)不法行為責任を免れるための要件①―事実の適示による名誉毀損の場合

真実性の証明と相当性の抗弁

実は、人の社会的評価を下げる投稿をしても、それが常に不法行為となるわけではありません。真実性の抗弁や相当性の抗弁と呼ばれる反論に成功することで、名誉毀損の責任を免れることができるのです。抗弁というと難しいですが、“法律上許されている反論”という程度に理解してください。民法上に条文はありませんが、判例は、刑法230条の2を参考に、次のように述べています。

最高裁昭和41年6月23日判決
その行為が対象者の社会的評価を低下させるとしてその行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相応の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

この判例は、要件として、

①「その行為が公共の利害に関する事実に係」ること(事実の公共性)
②「もっぱら公益を図る目的」であったこと(目的の公益性)
③「摘示された事実が真実であることが証明された」こと(真実性の証明)

の3つを挙げています。

また、それらの要件を満たす場合には、

「違法性がなく、不法行為は成立しない」

と述べています。

ここで、“不法行為の成立要件に違法性なんてあったっけ…?”などと疑問を抱いた方は非常に鋭いです。確かにその通りで、不法行為の成立要件はa故意又は過失、b権利又は法益侵害、c損害の発生、d因果関係の4つでした。しかし、刑法には正当防衛(刑法36条1項)のように行為の違法性を消失させるルールがありますが、実は、民法にも正当防衛(720条)などの違法性を消失させるルールが存在し、それが成立すると不法行為責任を免れることができるのです。この判例も、①~③の要件を満たす場合には、民法の正当防衛などと同様に違法性を消失させ、その結果として不法行為責任を免れるという理屈になります。

そのほかにも、③の証明に失敗した場合に、

③´「その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相応の理由がある」(相当性)

という要件を満たすときには、

「故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しない」

と述べています。

まとめると以下の通りです。

免責のための要件効果
①事実の公共性
②目的の公益性
③真実性の証明
損害賠償責任なし(違法ではない)
①事実の公共性
②目的の公益性
③相当性
損害賠償責任なし(故意・過失なし)

それぞれの要件の意味

①事実の公共性の意味を定義した裁判例はありませんが、“社会の正当な関心事”などといわれています。たとえば、「建築会社のX社は耐震基準を満たさない欠陥住宅を量産している」という表現は、住宅の購入を検討する者にとっては重要な情報を、また、入居者の生命・身体という重要な利益にかかわる情報を提供していることから、社会の正当な関心事といえるでしょう。他方で、「大企業社長のXが現在不倫をしている!」という表現は、単に公衆の好奇心を満たすだけの情報ですので、社会の正当な関心事ではないといえるでしょう。

②目的の公益性については、判例上は「もっぱら公益を図る目的」という表現になっていますが主たる動機が公益を図る目的であれば目的の公益性の要件を満たすと考えられています。たとえば、「建築会社のX社は耐震基準を満たさない欠陥住宅を量産している」という表現ですと、住宅の購入を検討するすべての者に対して重要な情報を提供していますので、主たる動機が公益を図る目的であると認められやすいでしょう。他方で、X社のライバル会社からお金をもらって上記投稿をした場合には、主たる動機が公益を図る目的であるとは認められないことが多いでしょう。

③真実性の証明の要件が認められるためには、投稿した事実が真実であることを証明しなければなりません。つまりは、様々な証拠をもって、裁判の場において、表現内容が真実であると裁判官に思わせる必要があるのです。ただし、表現内容のすべてが真実であることの証明が必要というわけではなく、表現内容のうち重要な部分についての真実性が真実であることの証明があれば足ります。

③´相当性については、情報源・取材源が確かなものかどうか、裏付取材が十分になされているかどうか、名誉毀損の対象となった者やキーマンへの直接取材が試みられているかどうかなどの事情を総合的に考慮して判断されます。

ここまで難しかったかもしれませんが、要するに、裁判で投稿内容が真実だと証明できた場合や、表現内容についてしっかりと裏付調査ができていたと認められた場合には、名誉毀損の責任を免れることができるということなのです。

(4)不法行為責任を免れるための要件②―意見の適示による名誉毀損の場合

事実を適示した場合に、真実性の抗弁や相当性の抗弁といった反論により、名誉毀損の責任を免れることができることはお分かりになったのではないかと思います。他方で、物事に対する“意見”を述べた場合には、その真否を明らかにすることはできません。

たとえば、「建築会社のX社から住宅を買うべきでない」という発言で考えてみましょう。このような意見については正しいと考える人もいれば間違っていると考える人もいますよね。つまり、事実についてはそれがあるのかないのかを明らかにできますが、意見については自分がその意見についてどう考えるかを超えて真否を明らかにすることはできないのです。そこで、意見や論評による名誉毀損の場合には、判例は、次のように述べています。

最高裁平成9年9月9日判決
ある真実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである。そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。

この判例は、要件として、

①「その行為が公共の利害に関する事実に係」ること(事実の公共性)、
②「もっぱら公益を図る目的」であったこと(目的の公益性)
③「意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明」がされたこと(前提事実の真実性の証明)
④「意見ないし論評としての域を逸脱したものでない」こと

の4つを挙げています。①と②は事実の適示の場合と同じです。③については先ほど述べたように、意見そのものの真否を明らかにすることはできないので、その意見のもととなった事実についての真実性を問題にしているのです。

そして、それらの要件を満たす場合には、

「右行為は違法性を欠く」

と述べています。

そのほかにも、③の証明に失敗した場合に、

③´「行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があ」る(相当性)

という要件を満たすときには、

「その故意又は過失は否定される」

と述べています。

まとめると、①事実の公共性、②目的の公益性、③前提事実の真実性の証明、③意見ないし論評としての域を逸脱しないことの要件を満たす場合には、違法ではないとして名誉毀損の責任を免れることができますし、①②④に加えて③´相当性の要件を満たす場合には、故意・過失がないものとして名誉毀損の責任を免れることができます

これまでに③意見ないし論評としての域を逸脱したと判断された例としては、「バカ」「キチガイ」「狂人」などの表現を何度も繰り返し、「脳味噌のウジがわいたアホ」などと表現した例があります。

4 名誉毀損の被害者は加害者に対してどんなことができる?

他人の名誉を傷つけた場合には、不法行為が成立し、損害賠償責任が生じることがあります。それ以外にも、名誉回復処分として謝罪広告の掲載命令を受けたり、差止請求が認められることがあります。

(1)損害賠償(慰謝料)の相場

平成15年から平成26年までに公刊された名誉毀損の裁判例の認容額をみると、その最大値は1000万円、最小値は1万円となっています。また、平均認容額は180万円程度で、中央値は100万円となっています。認容額で一番多いのが50万円以下のものです。その次に多いのが50万円から100万円です。

おおまかな傾向でいえば、名誉毀損の被害者が一般人の場合には、慰謝料の額は50万円以下にとどまることが多いです。逆に、被害者が有名人である場合には、慰謝料の額は100万円を超えることも珍しくはありません。

(2)名誉回復処分

不法行為に対する救済は損害賠償でおこなわれるのが原則ですが、名誉毀損の被害者については、例外的に名誉回復処分による救済を受けることができる場合があります。次の条文をみてください。

第723条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

この条文には、裁判所は「名誉を回復するのに適当な処分」を加害者に命じることができる旨の記載があります。この適当な処分の一つとして、謝罪広告請求というものが導かれます。謝罪広告請求というのは、たとえば、

「〇〇様の名誉権を侵害し、ご迷惑をお掛けしましたことを心からお詫び申し上げます」

といった内容の謝罪文を新聞紙や雑誌に掲載させたり、SNS上に投稿させることなどを指します。加害者による謝罪文をメディア等に掲載させることで被害者の名誉をある程度回復させることができるという理解によるものです。

ただ、謝罪広告の請求はその要件が厳しいです。謝罪広告が金銭賠償の原則の例外にあたるため、謝罪広告をさせる必要性がなければ請求が認められません。その必要性の判断にあたっては、被害者の社会的地位、被害団体の公共性の程度、名誉毀損行為の態様、内容、程度、被害者が被った精神的苦痛の程度、社会的評価の低下の程度、当該表現の閲覧者数や社会的影響力の強弱、名誉毀損行為から口頭弁論終結時までの期間の長短、金銭賠償の有無、賠償額などが考慮されます。

謝罪広告が実際に認められるのかどうかを判断するのは、法律家にとっても難しいことですので、“いろんなことを考慮して判断するのだな“という程度の理解で大丈夫です。

(3)差止請求

名誉毀損の被害者については、差止請求権が認められることがあります。条文で認められた権利ではなく、判例がこのような権利を認めています。次の判例をみてください。

最高裁昭和61年6月11日判決
人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償(民法710条)又は名誉回復のための処分(同法723条)を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。

つまり、名誉毀損の被害者は、名誉権を侵害されたことをもって侵害行為の差止めを求めることができるのです。侵害行為の差止めといいますと、具体的には、SNS上の投稿でしたら問題となる投稿の削除や非公開化を求めることができますし、週刊誌などですと掲載中止や販売禁止を求めることができるのです。ただし、判例は、差止請求の要件について次のように述べています。

最高裁平成14年9月24日判決
どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。

すなわち、表現を削除した場合の投稿者の不利益と、表現をそのまま放置しておいた場合の被害者の不利益を天秤に載せて考察します。そして、考察の結果、①「侵害行為が明らかに予想され」(侵害行為の明白性)、②「その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり」(重大な損失を受けるおそれ)、③「その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になる」(事後的な回復の困難性)という要件を満たす場合に、表現の削除等を請求することができるのです。