0 動画で解説をみる
1 動画の概要
動画の企画内容としては、歌舞伎町にて酔っ払いの置き引きが多発しているということで、カバンの中にGPSを入れて、酔いつぶれたフリをしてカバンを置き引きをさせ、その犯人を捕まえるというものでした。その後、無事(?)に置き引きされ、犯人を捕らえようとして四苦八苦する動画になっています。動画上では、犯人の顔にはモザイクがかけてありました。
その後、公開された動画をみた犯人が、周りの人から指摘をされたことや親に相談をしたことなどの理由から、エ.comさんに動画の削除を要請し、消さなかった場合には法的措置を講じる旨述べています。そこで、仮に本当に訴訟になってしまった場合、どうなるのかを解説していきます。この動画がヤラセなしという前提で解説しますので、その点はご留意ください。
2 エ.comさんが訴えられるとしたら?
(1)肖像権侵害になる?
今回、エ.comさんが訴えられるとすれば、おそらく肖像権侵害ということになるでしょう。肖像権とは、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない権利のことをいいます。肖像権を侵害するかどうかの判断については、以下の判例があります。
ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
要するに、様々な事柄を考慮した上で、受忍限度を超える場合に肖像権侵害が認められるということです。受忍限度というのがわかりにくければ、「ガマンの限界」と置き換えるとわかりやすくなると思います。ただ、そのときのガマンの限界というのは、肖像権が侵害された自分のガマンの限界ではなくて、社会一般的にみたときのガマンの限界をいいますのでご注意ください。
今回の動画についてみると、
公的な地位にはなくただの一般人 ⇒ 違法に傾く
②撮影される人の活動内容
公的な活動ではないが私的な活動とも言い難い ⇒ 傾きなし
③撮影の場所
プライベートな場所ではなく、公共の場所 ⇒ 適法に傾く
④撮影の目的
公益を図る目的?私的制裁目的? ⇒ ?
⑤撮影の態様
撮影を制止するような発言後もなお撮影 ⇒ 違法の方向に傾く
⑥撮影の必要性
公益目的であっても全てを映す必要なし ⇒ 違法の方向に傾く
となります。どちらかといえば、違法に傾く要素のほうが多いですね。個人的には、④撮影の目的についても、私的制裁目的として、違法に傾くのではないかと思います。そうすると、社会一般にみてガマンの限界を超えているとして、肖像権侵害が認められるのではないかというのが僕の意見です。
(2)モザイクがかかってるから大丈夫?
また、犯人の顔にモザイクがかかっているので問題がないのではないかという争点もありえます。この点については、次の判例をご覧ください。
被上告人と面識があり,又は犯人情報あるいは被上告人の履歴情報を知る者は,その知識を手がかりに本件記事が被上告人に関する記事であると推知することが可能であり,本件記事の読者の中にこれらの者が存在した可能性を否定することはできない。そして,これらの読者の中に,本件記事を読んで初めて,被上告人についてのそれまで知っていた以上の犯人情報や履歴情報を知った者がいた可能性も否定することはできない。したがって,上告人の本件記事の掲載行為は,被上告人の名誉を毀損し,プライバシーを侵害するものであるとした原審の判断は,その限りにおいて是認することができる。
モザイクがかかっていたとしても、場所・服装・背丈・話し声など動画に映った情報により犯人を推知可能な場合には、プライバシー権侵害となりうるのです。プライバシー権侵害と肖像権侵害は完全に同じものというわけではありませんが、似た構造をもっておりますので、この判例は肖像権侵害にも適用可能でしょう。
今回のケースでも、実際に、犯人は「身バレしている」「まわりから色々いわれて」などと発言しておりますので、犯人を知る人であれば動画を見て犯人が映っていると認識可能な程度の情報が映っていたといえるでしょう。したがって、今回のケースだと、犯人の顔にモザイクがかかっているから問題がないという言い分は通用しないと思います。
(3)結論
以上より、エ.comさんの動画は犯人の肖像権を侵害しており、犯人はエ.comさんに動画を削除してもらう権利を持っているというのが僕が出した結論となります。
なお、厳密にいえば、「3 今回問題となっている動画」の一番下の動画の9分43秒あたりは胸ぐらをつかんでいますが、これは暴行罪の要件を満たします。みなさんもカッとなって胸ぐらをつかむといった行動は控えるようにしましょうね。