1 解説を読む
パワーハラスメントとは、厚生労働省によると、「職場のパワー・ハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。この定義によりパワーハラスメントとされる行為の中には、犯罪行為も含まれています。以下では、パワーハラスメント行為が実際に犯罪と認められた刑事裁判の事例や、犯罪行為であることに言及をした民事裁判の事例をみていきましょう。
暴行罪(刑法208条)
スナックで、カラオケを歌っている部下のふとももを両腕で抱えて部下を持ち上げた(福岡地裁平成27年12月22日)。
先輩が椅子を足蹴して後輩の右足に当てたり、後輩の胸ぐらをつかんで前後に揺さぶった(大阪地裁平成24年5月25日)。
傷害罪(刑法204条)
高校の部活の顧問が生徒の顔面や頭部を平手で十数回連続で殴り、その直後にも顔面を平手で数回殴って、生徒に全治3週間の傷害を負わせた(東京地裁平成28年2月24日)。
脅迫罪(刑法222条)
深夜に上司が、夏季休暇中の部下に対し、「ぶっ殺すぞ」と2度発言したほか、荒い言葉でののしりながら退職を強要した行為について、「刑法上も脅迫罪(刑法222条1項)を構成するほどの違法性を備えて」いると判示した(東京地裁平成24年3月9日)。なお、この裁判例により実際に犯罪と認められたわけではありませんが、民事裁判において犯罪該当性に言及した例として参考にしてください。
強要罪(刑法223条)
大学事務職員が、上司に対して、「わび入れろや」などと怒って、ドアに鍵をかけて上司の前に座り、「土下座せい、頭、足蹴にしたろか」などと大声で叫んで上司を恫喝して複数回土下座させ、また長時間正座させるなどして、少なくとも1時間30分にわたり上司2名が室内から出ることを著しく困難にした(神戸地裁平成29年8月9日)。
名誉毀損罪(刑法230条1項)
大学の教授が准教授に対し、助手や仮移転作業をおこなう業者などがいる前で、准教授が実験室の鍵を隠している旨摘示した行為が、准教授の名誉を毀損するものであって不法行為上違法と評価した(金沢地裁平成29年3月30日)。なお、この裁判例により実際に犯罪と認められたわけではありませんが、この事例においての名誉毀損の判断については民事裁判と刑事裁判で大きな違いはないといえますので、参考にしてください。
以上です。次に、パワーハラスメントの類型とありうる犯罪行為についてまとめておきます。厚生労働省によると、パワーハラスメントは以下の6類型に分類することができます。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
①身体的な攻撃 | 暴行罪や傷害罪の可能性。 |
②精神的な攻撃 | 脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪の可能性。うつ病などの発症による傷害罪の可能性もあり。 |
③人間関係からの切り離し | うつ病などの発症による傷害罪の可能性。 |
④過大な要求 | 強要罪の可能性。うつ病などの発症による傷害罪の可能性もあり。 |
⑤過小な要求 | うつ病などの発症による傷害罪の可能性。 |
⑥個の侵害 | 脅迫罪や強要罪の可能性。うつ病などの発症による傷害罪の可能性もあり。 |
以上より、パワハラが法律上の犯罪となることがあります。パワハラの意味や基準などをもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。