1 誹謗中傷とは?
誹謗中傷とは、辞書(デジタル大辞泉・小学館)によると…
根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけること。
という意味です。
本来、誹謗と中傷は別々の言葉です。誹謗とは「他人を悪く言うこと。そしること」、中傷とは「根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけること」という意味です。こうした似たような言葉がくっついて、誹謗中傷と呼ばれ、「根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけること」という意味になっています。
現在では、インターネットを通じてたくさんの人々がいろんな情報を発するようになりましたが、その結果として、日々、多くの誹謗中傷被害が発生し続けています。
2 誹謗中傷の具体例
誹謗中傷の具体例としては、以下のようなものがあります。
(1)「不倫中」との書き込み
職場の同僚とのツーショット写真と一緒に「Aは嫁さんがいるのに昼間からこんなところで不倫中。最低な人間だな。」と掲示板に書き込まれました。しかし、実際には、大型プロジェクトの完成祝いに同僚と打ち上げをおこなっていただけでした。
このように、社会的に許されてはならないとされていることをあたかもやっているかのようにみせかけるような内容の書き込みは誹謗中傷にあたります。
(2)「この人にレイプされました」との投稿
私の顔写真と一緒に「6月7日、私はこの人にレイプされました。本名はA、住所は東京都世田谷区××。私は絶対にこの人を許さない。」とTwitterにツイートされました。しかし、実際には、6月7日は一人で温泉旅行をしていましたし、特に女性との接触はありませんでした。
このように、ありもしない犯罪行為をでっちあげる内容の投稿は誹謗中傷にあたります。なお、レイプは強制性交等罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(刑法176条)にあたる犯罪行為です。
(3)「風俗店勤務のメス豚」との書き込み
「Aは3年前から風俗店で働くメス豚。女を売って荒稼ぎしたあぶく銭をホストに流すアホ女。はやくくたばれ。」と掲示板に書き込まれました。しかし、実際には、これまで一度も風俗店で働いたことがありませんし、ホストクラブにも行ったことはありません。
このように、一般の人から知られたくないような情報をでっちあげる内容の書き込みは誹謗中傷にあたります。
(4)「ブラック企業」との書き込み
「A社は低賃金で人を雇って死ぬまで働かせ続けるブラック企業。残業で家に帰れないなんてザラだから。こんなところに就職するより死んだほうがマシ。就活生マジ注意な。」と掲示板に書き込まました。しかし、実際には、A社は年代ごとの会社員の平均的な給料以上の給料を支給していますし、法で定められた労働時間を遵守しています。
このように、一般に問題であるとされることをおこなっているような印象を与える内容の書き込みは誹謗中傷にあたります。
(5)「不衛生」との飲食店レビュー
「A店は賞味期限の切れた食品を平気で使うし、挙句の果てには客が残したメンマとかスープとかをほかの客に出している。不衛生すぎるから絶対に行っちゃいけない。」と飲食店レビューサイトに書き込まれました。しかし、実際には、A店では業務マニュアルに従って食品の賞味期限管理を徹底しておりますし、残飯については適切に処理をおこなっています。
このように、虚偽の内容をもとにして不当に評価を下げるようなレビューは誹謗中傷にあたります。
(6)その他
すべてを挙げることはできませんが、たとえば以下のような書き込みも誹謗中傷といえるでしょう。
- 風俗店の常連客
- 暴力団と交友関係あり
- 八百長試合
- 詐欺の片棒を担いだ
- 幼稚園の園児を虐待
- 実験データがねつ造
- イカサマ鑑定書
- 虚偽の放送内容
- 医療ミスを隠蔽
ここで挙げたものは一例にすぎません。
3 誹謗中傷に対してできること
誹謗中傷の被害を受けた場合、被害者は誹謗中傷に悩まされたり、苦しまされたりします。誹謗中傷の内容が広まってしまうと、たくさんの人にありもしない印象を抱かれることになり、回復できないような被害を受けることもあります。では、被害者は、こうした誹謗中傷の被害に対して何ができるでしょうか。
(1)誹謗中傷の法律上の扱い
誹謗中傷について、法律ではどのように扱われているのでしょうか。法律というと、たとえば、人を殺した場合には「殺人罪」ですし、人を傷つけた場合には「傷害罪」といった定めがあります。他方で、たとえば「誹謗中傷罪」といった定めはありません。誹謗中傷だけを取り扱う法律の定めはないのです。しかしながら、誹謗中傷の内容が名誉毀損や業務妨害といった法律上の問題を生じさせている場合に、その誹謗中傷に対して法的な請求をすることができます。
(2)誹謗中傷により起こりうる法律上の問題
では、誹謗中傷によって生じうる法律上の問題にはどのようなものがあるでしょうか。
名誉毀損
誹謗中傷の内容が人の名誉を傷つけるものである場合、名誉毀損罪(刑法230条1項)や不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
プライバシー権侵害
誹謗中傷の内容が他人に知られたくないことを指摘するようなものである場合、それがプライバシー権侵害として不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
肖像権侵害
誹謗中傷とともに写真が投稿されることがありますが、その場合、それが肖像権侵害として不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
営業権侵害
誹謗中傷の内容が業務を妨害するようなものである場合、業務妨害罪(刑法233条・234条)や不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
侮辱
誹謗中傷の内容が人を侮辱するものである場合、侮辱罪(刑法231条)や不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
その他
誹謗中傷が度の過ぎた脅迫行為を伴う場合、それが人格権侵害として不法行為(民法709条)の問題が生じる可能性があります。
また、誹謗中傷とともにイラスト等の作品を投稿された場合、著作権侵害などの知的財産侵害の問題が生じる可能性があります。
(3)誹謗中傷に対して何ができる?4つの対抗策について
次に、誹謗中傷の被害を受けた場合に、被害者が加害者に対してとることのできる法律上の対策策についてです。以下の4つの対抗策があます。
誹謗中傷の内容が名誉を傷つけたり、プライバシー権を侵害するなどして不法行為にあたる場合、損害賠償請求、すなわち被った被害の程度に応じてお金を請求することが可能になります。誹謗中傷の加害者が積極的に損害賠償請求に応じてお金を支払うことはさほど多くはありませんので、基本的には、民事裁判を起こして請求することになります。
誹謗中傷の内容が名誉毀損や侮辱などの犯罪行為にあたる場合、告訴状や被害届を警察署や検察庁などの捜査機関に提出し、犯罪行為があったことを伝えることにより、捜査を進めてもらうことができます。捜査が進んでいき、犯罪行為が明らかとなれば、刑事裁判となることもあります。告訴状の書き方を知りたい方は以下の記事を参照してください。
誹謗中傷を伴う書き込みが法律上の問題を生じさせている場合に、その書き込みを削除してもらうことができます。たとえばブログ主など書き込んだ人に対して削除しろと請求することができますし、掲示板の管理人など書き込んではいないけど書き込みを管理できる人に対して削除しろと請求することもできます。誰に対して削除しろと請求するかはケースバイケースです。
たとえば、誹謗中傷を伴う書き込みをした人に対して損害賠償請求をしようとしても、その人がどこの誰なのかがわからないと、請求することができません。そこで、書き込みをした人を特定するために用いるのが発信者開示請求です。問い合わせフォームやメールで請求をする場合もあれば、裁判を通じて請求をすることもあります。
(4)誹謗中傷を受けたらどうすればいい?
誹謗中傷の被害にあった場合、加害者に投稿の削除を求めたり、警察に相談したりと自分で対処することもできます。しかし、結局何も変わらず時間の無駄となることも多いです。それが本当に法律上の問題を引き起こしているのか、どのように対処していくことが望ましいかなどの点について、一度、お問い合わせ下さいね。
逆に、誹謗中傷の被害にあった場合にしてはならないのは、削除代行会社に削除を依頼することです。削除代行については、弁護士法72条に違反する犯罪行為です。誹謗中傷の被害者が削除代行を依頼することによって、犯罪行為を助長することになりかねません。十分にお気を付けください。