死刑制度はいる?いらない?死刑制度についての議論を紹介します。

1 はじめに

死刑制度をめぐっては、かなり昔から死刑存置論と死刑廃止論との間で議論があります。死刑存置論というのが死刑を存続させるべきという立場からの意見です。他方で、死刑廃止論というのが死刑を廃止すべきという立場からの意見です。

今回は、死刑制度をめぐる議論についてご紹介することで、死刑制度についての理解を深めていただくことを目的に記事を書いていきます。

2 死刑制度をめぐる議論

(1)憲法に合致しているか

死刑制度が日本国憲法に反するのではないかという議論があります。学説の多くは、死刑制度は憲法には違反しないとしています。なぜなら、憲法31条は次の通り定めていますが、これを反対解釈すると、法律の定める手続きによれば、生命を奪う死刑も科すことができると解釈できるからです。

憲法31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

最高裁判所も、死刑制度は憲法には違反しないとしています。長いですがそのまま引用します。

最高裁昭和23年3月12日
生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い。死刑は、まさにあらゆる刑罰のうちで最も冷厳な刑罰であり、またまことにやむを得ざるに出ずる窮極の刑罰である。それは言うまでもなく、尊厳な人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去るものだからである。現代国家は一般に統治權の作用として刑罰權を行使するにあたり、刑罰の種類として死刑を認めるかどうか、いかなる罪質に對して死刑を科するか、またいかなる方法手續をもって死刑を執行するかを法定している。そして、刑事裁判においては、具體的事件に對して被告人に死刑を科するか他の刑罰を科するかを審判する。かくてなされた死刑の判決は法定の方法手續に從って現実に執行せられることとなる。これら一連の關係において、死刑制度は常に、国家刑事政策の面と人道上の面との双方から深き批判と考慮が拂われている。されば、各国の刑罰史を顧みれば、死刑の制度及びその運用は、総ての他のものと同様に、常に時代と環境とに應じて變遷があり、流転があり、進化がとげられてきたということが窺い知られる。わが国の最近において、治安維持法、国防保安法、陸軍刑法、海軍刑法、軍機保護法及び戰時犯罪處罰特例法等の廢止による各死刑制の消滅のごときは、その顕著な例證を示すものである。そこで新憲法は一般的概括的に死刑そのものの存否についていかなる態度をとっているのであるか。辯護人の主張するように果して刑法死刑の規定は、憲法違反として効力を有しないものであろうか。まず、憲法第十三條においては、すべて国民は個人として尊重せられ、生命に對する国民の權利については、立法その他の国政の上、最大の尊重を必要とする旨を規定している。しかし、同時に同條においては、公共の福祉という基本的原則に反する場合には、生命に對する国民の權利といえども立法上制限乃至剥奪されることを當然豫想しているものといわねばならぬ。そしてさらに、憲法第三十一條によれば、国民個人の生命の尊貴といえども、法律の定める適理の手續によって、これを奪う刑罰を科せられることが、明かに定められている。すなわち憲法は現代多數の文化国家におけると同様に、刑罰として死刑の存置を想定し、これを是認したものと解すべきである。言葉をかえれば、死刑の威嚇力によって一般豫防をなし、死刑の執行によって特殊な社會惡の根元を絶ち、これをもって社會を防衛せんとしたものであり、また個體に對する人道觀の上に全體に對する人道觀を優位せしめ、結局社會公共の福祉のために死刑制度の存續の必要性を承認したものと解せられるのである。辯護人は、憲法第三十六條が殘虐な刑罰を絶對に禁ずる旨を定めているのを根據として、刑法死刑の規定は憲法違反だと主張するのである。しかし死刑は、冒頭にも述べたようにまさに窮極の刑罰であり、また冷厳な刑罰ではあるが、刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同條にいわゆる殘虐な刑罰に該當するとは考えられない。ただ死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に殘虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを殘虐な刑罰といわねばならぬから、將來若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき殘虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第三十六條に違反するものというべきである。前述のごとくであるから、死刑そのものをもって殘虐な刑罰と解し、刑法死刑の規定を憲法違反とする辯護人の論旨は、理由なきものといわねばならぬ。

この判例は、①憲法13条は、生命に対する国民の権利について、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めているけども、公共の福祉に反する場合には、立法上制限・はく奪されることが予定されていること、②憲法31条は、生命が尊いといっても、法律の定める適正な手続によって、これを奪う刑罰を科しうることを定めていることの2点から、死刑制度が憲法に違反しないことを理由付けています。また、③弁護人は死刑が残虐な刑罰にあたるとするけども、死刑そのものが直ちに残虐な刑罰にあたるとは考えられないとも述べています。

これに対して、死刑制度を憲法に違反するとする学説もあります。この学説は、死刑は憲法13条に定める生命権を制約する刑罰として正当化できないといいます。

(2)死刑廃止論の考え方

日本国憲法のもとでは、死刑を廃止しなければならない理由は積極的には見出しがたいです。それでも死刑廃止論が叫ばれているのはどういう理由によるのでしょうか。

死刑廃止論は大きく分けて次の3つの理由から死刑を廃止すべきと主張しています。

①誤判の可能性
②死刑廃止の世界的な動向
③死刑の非人道性

それぞれの理由について確認していきましょう。

誤判の可能性

刑事裁判には、誤って犯人でない人を処罰してしまう可能性があります。これを誤判の可能性といいますが、法も誤判の可能性があることを前提として、再審の制度を設けています。しかし、死刑を執行してしまうと、再審を受けることができなくなるため、誤判による被害を回復することができなくなってしまうと主張しています。

また、確かに、死刑に限らずほかの刑罰を下された場合にも誤判の可能性はありますが、死刑と死刑以外の刑罰では生命を奪ってしまうかそうでないかという点で質的に異なると主張しています。

世界的な動向

2017年12月31日時点で、死刑制度を存続している国が56か国であるのに対して、死刑制度を廃止した国は106か国となっています。また、死刑制度自体は存在するものの、過去10年間に一度も死刑が執行されていない国は29か国あります。世界的には、死刑を廃止する動きのほうが強いといってよいでしょう。こうした国際世論は、日本の政治的・経済的発言力にも影響を与えるのだと主張しています。

非人道性

死刑は野蛮であり残酷な刑罰であって、人道主義の精神から許されないと主張しています。

(3)死刑存置論の考え方

他方で、死刑存置論は大きく分けて次の4つの理由から死刑を廃止すべきと主張しています。

①国民感情・国民の法的確信
②犯罪抑止力
③被害者(遺族)感情の鎮静
④凶悪犯罪者の再犯の可能性除去

それぞれの理由について確認していきましょう。

国民感情・国民の法的確信

刑罰の究極的な目的は社会秩序の維持にあるということができます。そして、社会秩序を維持するためには、法秩序に対する国民の信頼を維持することが重要になります。そうすると、現状、国民の一般的な法に対する考え方として死刑廃止に賛成するというところにまでは至っていないので、現状では死刑を存続させることが妥当であると主張しています。

犯罪抑止力

死刑には、他の刑罰よりも重大犯罪の実行をためらわせる犯罪を抑止する力があるので、重大犯罪を抑止するためにも死刑の存続が必要であると主張しています。

被害者や遺族の感情の鎮静

刑罰には被害者や遺族の感情を鎮める機能があります。そして、凶悪犯罪の被害者や遺族の犯人に対する強い感情は、その犯人に死刑を科すことでようやく鎮めることができるのだと主張しています。

凶悪犯罪者の再犯の可能性除去

死刑を科し、執行することで、凶悪な犯罪者を社会から完全に隔離し、再犯可能性を完全に断つことができるという効果があると主張しています。

3 死刑制度に対する国内の世論

2014年の内閣府世論調査によると、死刑制度についての国民の世論は次の通りの結果となっています。

死刑制度に関して、このような意見がありますが、あなたはどちらの意見に賛成ですか?
死刑もやむを得ない80.3%
死刑は廃止すべき9.7%
わからない、一概にいえない9・9%

有効回収数1826人の結果なので、数を増やせば数値に変動があるかもしれませんが、8割を超える人が「死刑もやむを得ない」と死刑の存続に消極的ながらも賛同していることは注目に値します。次に、「死刑もやむを得ない」とした人に対する質問とその結果をみてみましょう。

 

将来も死刑を廃止しない方がよいと思いますか、それとも、状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよいと思いますか。
将来も廃止しない57.5%
将来的には廃止してもよい40.5%
わからない、一概にいえない2.0%

こちらは、1つ目の質問で「死刑もやむを得ない」とした人に対する質問と結果です。現状は「死刑もやむを得ない」としている人でも、「将来的には廃止してもよい」と考えている人が一定数いらっしゃることがわかります。

4 おわりに

今回は、死刑制度をめぐる議論の状況をみました。みなさんは死刑に賛成ですか?それとも反対ですか?いずれの意見でも構いませんが、意見を持つ場合にはしっかとした理由が欲しいものです。この記事を読んで、自分の意見を深めてみてくださいね。