発信者開示請求とは?誹謗中傷の対策に役に立つ?

1 発信者開示請求とは

インターネットを通じておこなわれた誹謗中傷は、インターネットの匿名性ゆえ誹謗中傷の発信者が誰であるかがわからないことが多いです。そして、発信者を特定できなければ、民事裁判で損害賠償を求めることができません。

このような場合に、発信者を特定するには、TwitterやYouTubeなどの管理者から発信者の登録情報を特定したり、発信者が利用したインターネットサービスプロバイダを特定し、プロバイダとの契約情報から発信者を特定するほかありません。

この発信者を特定する手続きを発信者開示請求と呼んでいます。簡単にいえば、誹謗中傷した人の名前や住所を突き止めるための手続きということになります。

ここから発信者開示請求の手続についてできる限りかみ砕いて解説していきますが、それでも難しい解説になってしまっているので、解説の内容がわからなければ、発信者開示請求のおおまかな流れと発信者開示請求は2回おこなう必要があるということを知っていただければ十分です。

2 発信者開示請求の流れ

(1)おおまかな流れ

発信者開示請求は、おおまかに次のような流れをたどります。

①サイトの管理者やサーバー管理人の特定
②管理者に対してIPアドレス等とタイムスタンプ等の開示請求
③IPアドレスからプロバイダの特定
④プロバイダに対する発信者の情報開示請求

以下では、この流れに従ってもう少し詳しく解説していきます。

(2)サイトの管理人やサーバー管理人の特定

まずは、WEBサイトの管理人を特定するために調査をすることになります。多くのケースでは、WEBサイトの「運営者情報」「会社概要」「お問い合わせ」などのメニューに運営者の氏名・名称や連絡先が掲載されています。それを確認することでWEBサイトの管理人(=運営者)を特定することができます。

WEBサイトにはサイト管理人の情報が載っていないケースもあります。この場合は、ドメインについてのWhois情報を調べることになります。たとえば、以下のサイトでwhois情報を調べることができます。

https://tech-unlimited.com/whois.html

whois情報を検索して出てくるのは、ドメイン登録者の情報です。ドメイン登録者はサイト管理人と一致することが多いですが、必ず一致しているというわけではありません。ドメイン登録者の情報として個人情報が知られることを防ぐために、whois情報公開代行サービスというものが利用されることで、代行者の情報が記載されていることがあるのです。

ドメインのwhois情報を確認してもサイト管理者がわからない場合には、次に、サーバー管理者を調べることになります。サーバー管理者は、サーバーに割り当てられているIPアドレスを調べて、そのIPアドレスを管理している人を調べるという手順を踏んで調査します。具体的には、正引きという方法によりサイトのドメイン部分をIPアドレスに置き換えます。たとえば、以下のサイトでドメインとIPアドレスの置き換えが可能です。

https://seo.atompro.net/webtoolfree_hosttoip_.html

IPアドレスがわかれば、再びwhois検索を利用します。こうしてサーバーのIPアドレスの管理者情報を調べることで、サーバー管理者の情報を得ることができます。

(3)管理者等に対してIPアドレス等とタイムスタンプ等の開示請求

サイト管理者等に対してIPアドレスやタイムスタンプを開示するように請求します。方法としては、以下の3つがあります。

①WEB上のフォームからおこなう方法
②プロバイダ責任制限法ガイドラインに従った方法
③裁判所の仮処分を利用する方法

WEB上のフォームからおこなう方法については、削除を請求するにはよいのですが、発信者情報開示をするのは難しいです。サイト管理者等からすると、発信者情報を開示する義務はないどころか、開示することで発信者に対する法的責任を負う可能性のある立場にあるからです。

プロバイダ責任制限法ガイドラインに従った方法については、請求を受けたサイト管理者等が発信者に意見照会をおこない、その後請求者に対して正式な回答をおこなう関係で、回答までに1か月程度の期間が必要となります。加えて、発信者開示請求に対しては慎重に対処をするサイト管理者等が多いことから、せっかく1か月待って回答が届いたのに、開示できないとの回答でガッカリすることもあります。そのため、記載内容自体が明らかに権利を侵害していて、確実に発信者開示請求に対応してくれるだろうという状況でのみ利用するのが賢明です。

なお、ガイドラインに従った方法をおこなうために必要な書類を以下にまとめておきます。

個人の場合1.免許証などの身分証明書の写し
2.印鑑登録証明書(取得後3か月以内のもの)
3.証拠資料
法人の場合1.請求者の登記事項証明書(資格証明書)
2.印鑑登録証明書(取得後3か月以内のもの)
3.証拠資料

裁判所の仮処分を利用する方法については、裁判所ごとに違いはありますが、裁判所の決定が出るまでにおおよそ2週間程度必要となります。この方法には、裁判所の決定が出れば発信者開示請求を確実におこなうことができるというメリットがあります。反面で、裁判手続を経なければなりませんので、弁護士に依頼する費用などのコストが大きくなってしまうというデメリットがあります。

請求の根拠となる条文は、プロバイダ責任制限法の以下の条文です。

第4条1項 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

この条文にいう「特定電気通信役務提供者」にサイト管理者等も含まれるのです。

なお、仮処分を申し立てるにあたって必要となる書類を以下にまとめておきます。

個人の場合1.相手方の登記事項証明書(資格証明書)*
2.証拠資料
法人の場合1.請求者の登記事項証明書(資格証明書)
2.相手方の登記事項証明書(資格証明書)*
3.証拠資料

*相手方が個人の場合には不要

(4)IPアドレスからプロバイダの特定

発信者開示請求により、サイト管理人等からIPアドレスの開示を受けることに成功した場合には、投稿に使用されたプロバイダを特定する必要があります。

プロバイダは、Whois検索を用いて特定をします。Whois検索にIPアドレスを入力して検索をおこなうと、検索結果にプロバイダの名称が表示されます。

(5)プロバイダに対する発信者の情報開示請求

投稿に使用されたプロバイダを特定したら、今度はプロバイダを相手として発信者開示請求をします。これは、原則として訴訟を利用します。請求の根拠となる条文は(3)でも触れたプロバイダ責任制限法4条1項です。

基本的には、ここまできてようやく発信者の氏名・住所を知ることができます。もちろん、ここまでせずとも発信者の情報を知ることができるケースもあれば、ここまでしても未だ発信者の情報にたどり着けないケース(たとえば、ネットカフェからの投稿だとネットカフェを営業している会社に対して再度発信者開示請求が必要となります。)もあります。要するに、発信者開示請求は原則として2回おこなう必要があるということなのです。

(6)注意点―アクセスログの確保

プロバイダといえども、IPアドレスと発信者を結びつけることができるのはIPアドレス割り当てのアクセスログが残っている間のみとなります。そして、アクセスログは、多くの会社で3か月から6か月ほどしか保存されません(1年ほど保存している会社もありますが少ないです。)。

ゆえに、発信者開示請求は時間との戦いになります。2回の発信者開示請求をおこなううちに時間切れなんてことになってしまっては、発信者開示請求が無駄になってしまいます。そこで、書面でアクセスログの保存をプロバイダに要請したり、発信者情報消去禁止仮処分をおこなうことが必要となります。こうして、アクセスログを確保しつつ、発信者開示請求をおこなうことが重要です。

3 発信者開示請求は誹謗中傷の対策に役立つ?

誹謗中傷を内容とする投稿が名誉毀損やプライバシー権侵害といった法律上の問題を生じさせているとしても、投稿した人が誰であるかを特定できなければ、その人に対して法律上の請求をすることはできません。

そのため、投稿した人を特定するための発信者開示請求は、誹謗中傷をした人に対して法律上の請求をするために欠かせない準備という意味を持ちます。そして、発信者開示請求により誹謗中傷をした人を特定し、その人に対して法律上の請求をしていくことは、その人に大きなプレッシャーを与えることができます。

さらに、発信者開示請求により誹謗中傷をした人の特定に至ったという事実を発信することで、これから誹謗中傷をしようと考えていた人に、誹謗中傷をおこなうことについて考え直させることもできます

以上より、発信者開示請求をおこなうことは誹謗中傷の対策に役立つといえます。ただ、発信者開示請求により誹謗中傷をした人を特定する頃には、誹謗中傷のターゲットが別の人になっていることもあります。発信者開示請求をおこなうかどうかはコスト面と効果を比較しながら判断する必要がありますし、仮処分や訴訟についてはかなり専門的な手続になりますので、誹謗中傷を受けた方はどのような手段をとるのがよいのかを含めて一度弁護士に相談することをおすすめします。