論文答案の基本の「キ」

はじめに

予備試験・司法試験の論文試験対策として「答案を書け」と言われるけど、どのように答案を書けばいいのかがわからないという方は結構多いのではないかと思います。そんな方に向けて、今回は論文答案の基本について解説していきます。この記事を読むことで、論文答案についておおまかにどういうことを書けばいいのかがわかります。

1 答案に何を書くのか

さて、ここでみなさんに質問です。みなさんは答案に何を書きますか?

この質問に対して戸惑った方もいらっしゃるかもしれませんし、何らかの回答を出した方もいらっしゃることでしょう。この質問に対して私が用意した解答は、「問いに対する回答を書きます」というものです。予備試験や司法試験では論文式試験において論述問題が出題され、それに対して答案を書きます。つまり、何もないところから答案を書くのではなく、問いに対して答案を書くのです。

答案で書くべき事項については紙上で考えるから余計に難しくなります。そうではなくて、具体的に依頼者から相談を受けたシーンを思い浮かべてください。依頼者から「この場合、相手に請求できますかね?」と尋ねられた際に、どのように答えますか?おそらく多くの方が、依頼者の置かれた状況から関連する条文や判例をピックアップして、それらの条文や判例の適用可能性を検討した上で、「請求できます」や「請求できません」という回答をすると思います。もちろん、依頼者に対して検討過程をすべて話すことまではしないと思いますが、質問に対して正面から答えることを心掛けているはずなのです。

論文試験では、問いに対してどれだけ的確に回答できたかによって点数が決まります。ここでの的確さは、結論に至る検討過程から判断されます。つまり、検討すべき事項をすべて検討しているか、特に検討すべき事項とそうでない検討事項についてメリハリをつけた検討をしているか、結論に至る道筋は論理的かなどを総合的に判断されます。こうした検討過程が問いに向けられていなければなりません。

問いに答えることは合格答案の第一条件です。どんなに学術的に優れた答案を作成しても、問いに答えていなければ不合格答案です。問いに答えるという答案の絶対命題を頭に刻み込んでください。

2 答案の基本的な構成について

(1)論文式試験の傾向

予備試験や司法試験の論文式試験では、それらのほとんどにおいて「Xの主張や請求が認められるか」という形式をとっています。「この事案に含まれる憲法上の問題点を論じなさい」や「いかなる主張をすべきか検討しなさい」など、一見異なる形式をとっているように見える問題であっても、その中身として問われているのはXの主張や請求の当否だったりします。そのため、以下では、Xの主張や請求の当否を問う問題を念頭に置いて、答案の構成について記載します。

(2)答案に書くべきこと

Xの主張や請求の当否を問う問題において、答案に書くべき内容はおおむね次の通りです。

  1. Xの主張・請求の法的根拠の提示
    1. 要件検討
    2. 適用の可否に関する結論
  2. 問いに対する結論

まず、はじめに、Xの生の主張を法的に構成しなければなりません。たとえば、Xが交通事故の被害者である場合に、加害者に対して金銭を請求したいと考えているときには、民法709条という具体的な請求の根拠を提示してあげる必要があります。これにより法的な検討が可能になります。

次に、要件該当性について検討します。事実を要件にあてはめていき、要件が充足されるかどうかについての判断を行います。たとえば、民法709条をみると以下の通り定められています。

709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

709条から要件を抽出すると、「故意又は過失」「によって」「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」「損害」といった要件を抽出することができます。そして、交通事故によりXは傷害を負ったなどの事実を「他人の権利…侵害」という要件にあてはめて、Xの身体という「権利…を侵害」したなどと記載することで要件が充足されていることを確認します。

条文上の要件が事実と直接互換できないような場合には、事実と互換可能な程度にまで解釈を加えて、解釈を加えた要件に事実をあてはめます。たとえば、民法709条の「過失」の要件は、そのままでは事実と互換できません。ですので、「過失」に解釈を加えて、これが結果回避義務違反を意味することを提示した上で、事実と互換します。また、要件があいまいだったり、結論的に不都合が生じる場合には論点が存在する可能性がありますが、そうした論点についても言及し、一定の見解を示した上で事実をあてはめます。結論的に不都合が生じるのは、他の条文との関係で不均衡が生じるときや原理・価値に反するときが多いです。

要件該当性について検討した際には、要件を充足する場合には条文が適用できること、要件を充足しない場合には条文が適用できないことを記載します。その後、他の条文を検討する必要がある場合にはその検討を行い、他の条文を検討する必要がない場合には問いに対する結論を述べます。

3 答案作成上の注意点

答案に書くべきことは以上の通りですが、論文答案には作成にあたって注意すべきことはあります。以下、箇条書きしておきますので参考にして下さい。

  • 問いに答える
  • 条文を出発点にする
  • 条文を適示する
  • 要件は消極的要件以外はすべて検討する
  • あてはめでは事実を評価する
  • あてはめにおいて不利な事実から逃げない
  • メリハリをつけた論述をする

なお、私は各科目について実際の答案を使用して、答案作成上の注意点にも触れながら講義を進めていく論文講座を提供しておりますので興味がある方は是非以下の記事をご確認ください。

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