民法入門1 民法の全体像

1 民法とは

民法とは、私法の一般法をいいます。私法の一般法といってもわかりにくいかもしれませんので、私生活に関する基本的な法律だと理解してください。

たとえば、次に掲げるものはすべて民法に定めがあります

  • スーパーで野菜を買う
  • サラ金でお金を借りる
  • 交通事故によりケガをしたので加害者に請求をする
  • 銀行にお金を預ける
  • 弁護士に訴訟を依頼する
  • 交際相手と結婚をする
  • 寮生活中の子ども(高校生)に月8万円の仕送りをする
  • 父の遺産を相続する

このような私生活上の出来事についてのルールが民法なのです。

2 民法の構造

(1)5つの分野

民法は、おおまかに5つの分野に分けることができます。

  • 総則
  • 物権
  • 債権
  • 親族
  • 相続

民法の目次をみると、第1編総則、第2編物権…というように、上の5つの分野がそれぞれ目次の第1編から第5編に対応していることがわかります。

総則は、民法全体で共通する事柄を定めています。たとえば、18歳をもって成年と定めていたり(4条)、勘違いがあった場合に契約を取り消せることを定めていたり(95条)、一定期間が経過することで権利が消滅することを定めていたりします(166条)。

物権は、物に対する権利全般を定めています。どんな物権があるのか、それぞれの物権がどのような効力を持つのかなどのルールが置かれています。

債権は、人に対する権利全般を定めています。どんな契約があって、それによってどういう権利が発生するのか、契約を守らない場合にどういう手段をとることができるのかなどのルールが置かれています。

親族は、身分関係に関する事柄を定めています。親子関係や婚姻・離婚、養子縁組などのルールを取り扱っています。

相続は、人が死んだ場合に死者の財産を誰がどういう割合で受け継ぐのかという相続関係についてのルールを取り扱っています。

(2)財産法と家族法

5つの分野のうち、総則、物権、債権は財産に関することを定めています。ですので、これらをまとめて財産法と呼んでいます。また、親族と相続は家族に関することを定めています。ですので、これらをあわせて家族法と呼んでいます。

民法の条文の中に「財産法」や「家族法」といった言葉は出てきませんが、便利なので基本書や講義でよく使われます。ちなみに、司法試験や予備試験の論文式試験では、財産法の理解が問われることが多いです。

財産法と家族法を含めてまとめると以下の通りです。

  • 財産法
    • 総則
    • 物権
    • 債権
  • 家族法
    • 親族
    • 相続

3 民法で学ぶこと

(1)権利の一生

民法で学ぶのは、一言であらわすと権利変動です。権利変動とは、権利の発生・変更・消滅を意味します。

  • 権利変動
    • 権利の発生
    • 権利の変更
    • 権利の消滅

つまり、権利がどのように発生して、どんな場合にどういう風に変更して、そしてどのように消滅していくのかという権利の一生を学ぶのが民法です。

たとえば、大学に進学した学生が実家を出て一人暮らしをするために、マンションの一室を借りるとしましょう。その場合マンションの大家さん(貸主)との間で賃貸借契約を結ぶことになります。これによって、賃借権という権利が発生します。賃借権があることでそのマンションの一室に住みつくことが正当化されます。

マンションの一室に住んでいるうちに、雨漏りすることがあるかもしれません。そうした場合には、大家さんに連絡して修理をしてもらったり(貸主の修繕義務。606条1項)、あるいは自分で業者に修理を頼んでかかった費用を請求(借主の費用償還請求権。608条1項)することになるでしょう。民法は、そうしたトラブルに対応できるように、貸主の修繕義務借主の費用償還請求権がどういった場合に発生するのかを定めています。

もともとは4年でそのマンションを退去するつもりが、留年してしまって1年多く部屋を借りないといけなくなるかもしれません。その場合、契約期間を伸ばす必要が生じます。賃貸借契約の場合、通常は契約期間の満了と同時に契約期間が更新されるので(619条1項、618条、借地借家法26条1項・2項)、契約期間を伸ばすために大家さんと交渉する必要はありません。しかしながら、大家さんがそのマンションの一室を自分で使うことを予定しているなど、契約期間の満了とともに借主に出ていってほしいと考えることもあります。そんな場合には、借主は、大家さんとの間で契約期間について話し合う必要があります。話し合いの結果、1年間契約期間を伸ばすということになれば、賃借権の内容に変更があったということになります。

5年かかりましたが無事大学を卒業することができ、マンションを退去することになりました。このとき、賃貸借契約が終了し、借主の賃借権が消滅します。

このように民法では、権利がどのように発生して、どんな場合にどういう風に変更して、そしてどのように消滅していくのかを学ぶのです。

(2)民法の定め方

民法は、権利の一生を描くにあたって、どういった場合にどうなるのかという定め方をしています。たとえば、次の条文を見てください。

第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

このとき、「どういった場合に」という部分を「要件」と呼び、「どうなるのか」の部分を「効果」と呼んでいます。さきほど見た3条の2で言えば、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったとき」が要件で、「その法律行為は、無効とする」が効果です。

つまり、こういうことですね。

第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは(=要件)、その法律行為は、無効とする(=効果)。

このように、民法の多くの条文は、要件・効果を示す形で権利変動を定めています。どの部分が要件で、どの部分が効果なのかを意識しながら条文を読むことが民法学習のコツなのです。

4 民法の基本的な考え方

ところで、民法の根底には4つの考え方があります。どれも大事な考え方なのでここで見ておきましょう。

  1. 権利能力平等の原則
  2. 所有権絶対の原則
  3. 私的自治の原則
  4. 過失責任の原則

権利能力平等とは、私権について権利・義務の帰属点となる一般的資格のことを指します。要するに、権利を持ったり、義務を負ったりすることのできる資格のことです。権利能力平等の原則とは、このような権利能力を誰でも持つことを意味します。昔の奴隷制度の下では、奴隷は権利を持つことができませんでした。しかし、現代では、人であれば誰でも権利を持つことができるとしているのです。

所有権絶対の原則とは、所有権は何らの人為的拘束を受けないとの原則を指します。簡単に言えば、所有権によくわからん制限がつくことはないですよという程度の意味です。民法入門2で掘り下げて学びますので、ここではひとまず「ふーん」という程度で構いません。

私的自治の原則とは、個人は他者からの干渉を受けることなく、自らの意思に基づき自らの生活関係を形成することができるとの原則を指します。要するに、私生活について、自分のことは自分で決めるということが認められているのです。

過失責任の原則とは、他人の権利や財産を侵害しても、故意・過失がない限り責任を負わないという原則を指します。他人に対して責任を負うのは自分に非(落ち度)があるときに限られます。この原則がないと、注意をしていても責任を負うことになって、自由な活動が妨げられます。この原則があることで、必要な注意をしていれば責任を負わないので、委縮することなく自由に活動をすることができます




kubota
いかがでしたでしょうか。ここでは民法がどういう構造で成り立っているのか、そして民法でどういうことを学ぶのかをしっかりと理解してくださいね!



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