1 債権債務の意味と契約の考え方
(1)債権と債務の意味
民法入門1で学んだ通り、債権は人に対する権利です。正確にいえば、特定人が特定人に対して一定の給付を請求する権利をいいます。
たとえば、サラ金業者でお金を借りた場合、サラ金業者はお金を借りた人に対してお金を返してもらう権利を持ちます。つまり、サラ金業者という特定人が、お金を借りた人という特定人に対して、お金を返してもらうという給付を請求することができるのです。
これに対して、債務とは、特定人の特定人に対する一定の給付義務をいいます。ちょうど、債権に対応する義務です。さきほどのサラ金業者の例でいえば、お金を借りた人はサラ金業者にお金を返す義務を負いますが、この義務が債務です。
債権を持っている人を債権者、債務を負っている人を債務者といいます。
(2)債権の性質と物権との違い
以下の内容は民法入門2で触れた内容と重複しますので、復習がてら読んでいただければと思います。
債権は、相対効しか持たないといわれます。相対効とは、特定の人に対してのみ主張できる効力のことです。債権を持っていても、それに対応する債務を負う人に対してしか主張できないのです。
たとえば、AさんがBさんの自転車を5000円で買い取るという売買契約を結んだとしましょう。この場合、AさんはBさんに対して自転車を引き渡せという債権を持ちます。AさんはBさんに対して自転車を引き渡せということはできますが、Cさんに対して自転車を引き渡せということはできません。自分の債権に対応する債務を持っているBに対してしか、自分の権利を主張できないのです。
これに対して物権は、絶対効を持つといわれます。絶対効とは、誰に対してでも主張できる効力のことです。つまり、物権を持っているということは、誰に対してでも主張できるのです。
たとえば、「この物はオレの物だ!」という主張は、Aさんにもいえますし、Bさんにもいえますし、何でしたら内閣総理大臣にもいえるのです。
- 債権 → 相対効 ⇒ 特定の人だけに主張可能
- 物権 → 絶対効 ⇒ 誰にでも主張可能
(3)契約の基本的な考え方
債権の主な発生原因は契約です。人と人が約束をすることで債権と債務が発生します。ですので、契約における基本的な考え方は債権分野にとって重要な意味を持ちます。
契約においては、契約自由の原則という基本的な考え方があります。契約自由の原則は私的自治の原則が契約の場面で具体化したものです。契約自由の原則はその名の通り、契約について自由に決めることができることを意味しますが、より具体的には次の4つの内容を持ちます。
- 契約締結の自由
- 相手方選択の自由
- 方式の自由
- 内容形成の自由
契約締結の自由とは、契約をするかどうかを自由に決定することができることを意味します(521条1項)。たとえば、携帯電話を買い替えたい場合に、大手携帯会社が提示するプラン(契約内容)に納得をすればその契約を締結すればいいですし、納得をしないのであれば契約を締結しなくてもいいのです。
相手方選択の自由とは、契約の相手方を自由に選択することができることを意味します。たとえば、冷蔵庫を買う場合に、ヨドバシカメラやヤマダ電機などの家電量販店に行って買ってもいいですし、Amazonや楽天などの通販会社を用いて買ってもいいのです。
方式の自由とは、どのような方式で契約を締結してもよいことを意味します。必ずしも契約書による必要はありません(522条2項)。口約束であっても、それが法律上の権利や義務を発生させる内容であれば、それは契約として成立します。もちろん、契約書を用いて契約を締結しても構いません。
内容形成の自由とは、契約の当事者が契約の内容を自由に決定できることを意味します(521条2項)。たとえば、友人からバイクを譲り受ける場合に、友人との間で価格を自由に決めることができますし、ヘルメットやレインコートなどのおまけをつけてもらうこともできます。
このように、契約には自由が認められているので、そうであるにもかかわらずあえて自分から契約を締結した場合には、契約を守らなければなりません。これを契約の拘束力といいます。契約の拘束力は、自分の意思で契約を締結したのだから、その責任を負わなければならないという自己責任の考え方に基づきます。
2 債権の発生原因
(1)債権の発生原因と契約の種類
さきほど、債権の主な発生原因として契約を挙げましたが、債権の発生原因には次のものがあります。
- 契約
- 事務管理
- 不当利得
- 不法行為
(2)契約の種類
契約は、典型契約と非典型契約の2つに分類することができます。典型契約は民法に定められている契約をいいます。民法によって名前と型が与えられているということで、典型契約と呼んでいるのです。他方で、非典型契約は民法に定められていない契約をいいます。たとえば、リース契約、フランチャイズ契約、旅行契約などは非典型契約です。
典型契約を一覧にすると以下の通りです。
- 贈与契約
- 売買契約
- 交換契約
- 消費貸借契約
- 使用貸借契約
- 賃貸借契約
- 雇用契約
- 請負契約
- 委任契約
- 寄託契約
- 組合契約
- 終身定期金契約
- 和解契約
贈与契約とは、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、成立する契約をいいます。要するに、タダで何かをプレゼントするという契約です。
売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって成立する契約をいいます。要するに、お金を対価として物を売ったり買ったりするという契約です。
交換契約とは、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって成立する契約をいいます。たとえば、物々交換の契約がこれにあたります。
消費貸借契約とは、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって成立する契約をいいます。たとえば、お金を借りる契約がこれにあたります。
使用貸借契約とは、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって成立する契約をいいます。要するに、タダで物を借りるという契約です。
賃貸借契約とは、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって成立する契約をいいます。要するに、有料で物を借りるという契約です。
雇用契約とは、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって成立する契約をいいます。要するにお金をもらって働く契約のことです。民法は雇用契約のルールの一部を定めていて、残りは労働基準法や労働契約法などにルールが置かれています。
請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって成立する契約をいいます。たとえば、大工さんが家を建てる契約はこれにあたります。
委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約をいいます。たとえば、弁護士に訴訟を依頼する契約はこれにあたります。
寄託契約とは、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約をいいます。たとえば、ホテルのロビーで貴重品を預ける契約はこれにあたります。
組合契約とは、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって成立する契約をいいます。たとえば、マンション管理組合の多くは組合契約よって成り立っています。
終身定期金契約とは、当事者の一方が、自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって成立する契約をいいます。年金に近い内容の契約ですが、あまり利用されていません。
和解契約とは、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって成立する契約をいいます。たとえば、交通事故の加害者と被害者との間で示談をすることがこれにあたります。
(3)法定債権
事務管理・不当利得・不法行為は当事者の合意がなくても債権債務が発生する場面です。この3つをまとめて法定債権と呼んでいます。
事務管理とは、委任その他の契約または法律の規定によって義務を負担していないにもかかわらず、他人の事務を管理する場合であって、管理者が他人のために管理をする意思を有している場合のことをいいます。いわば、おせっかいをしている場合です。たとえば、頼まれたわけでもないのに隣の家の火災を消火する場合には事務管理にあたることがあります。
不当利得とは、ある者がある利益を保持しているが、その者による利益の保持が法的に正当化されない場合に、受益者に対し、その利益を保持することができる者へと利益を返還すべき義務を負わせる制度をいいます。たとえば、とある農家が自分の田んぼに散布した農薬が風で隣の田んぼにも散布された場合、とある農家は隣の田んぼの所有者に対し、不当利得を理由に農薬代を請求できる可能性があります。
不法行為とは、他人の行為または他人の物により権利を侵害された者が、その他人または他人とかかわりのある人に対して、侵害からの救済を求めることができる制度をいいます。たとえば、交通事故の被害者は加害者に対して不法行為を理由に損害賠償請求をすることができます。。
(4)まとめ
- 契約
- 典型契約
- 贈与契約
- 売買契約
- 交換契約
- 消費貸借契約
- 使用貸借契約
- 賃貸借契約
- 雇用契約
- 請負契約
- 委任契約
- 寄託契約
- 組合契約
- 終身定期金契約
- 和解契約
- 非典型契約
- 典型契約
- 法定債権
- 事務管理
- 不当利得
- 不法行為
3 債権の変更原因
債権の変更とは、債権の同一性を保ったまま、債権の内容が変わることをいいます。債権の発生原因によって変更原因はさまざまです。たとえば、賃貸借契約の存続期間の変更や、委任事項の変更はこれにあたります。
4 債権の消滅原因
債権の消滅原因をまとめると以下の通りです。
- 内容実現による消滅
- 弁済
- 代物弁済
- 供託
- 担保の実行
- 内容実現不能による消滅
- 履行不能
- 内容実現不必要による消滅
- 相殺
- 更改
- 免除
- 混同
- 権利の一般的消滅原因に基づく消滅
- 消滅時効
- 終期の到来
- 取消し
- 解除
- 解除条件の成就
- 債権の消滅を目的とする契約(解除契約、免除契約、相殺契約)
このようにさまざまな消滅原因がありますが、ここでは弁済と相殺についてみておきましょう。
弁済とは、債権者により債務の本旨に従った履行をすることをいいます。契約の場合は、契約に定めたことを実現することを意味します。たとえば、リサイクルショップで中古自転車を5000円で買うという契約をしたのであれば、リサイクルショップとしては自転車を引き渡すことが弁済です。他方で、自転車の購入者としてはお金を払うことが弁済です。弁済や履行という単語はよく出てきますので、今のうちに覚えておいてくださいね。
相殺とは、債務者が債権者に対して同種の債権を有する場合に、その債権と自己の債務を対等額につき一方的意思表示によって消滅させることをいいます。
たとえば、友達と一緒に牛丼を食べに行って、友達が財布を忘れてきたというので友達の分(300円)も出してあげたとしましょう。後日、また友達と一緒に牛丼を食べに行って、今度は友達が自分の分(300円)も出してくれたとしましょう。このとき、自分は友達に対して300円の債権を持ち、他方で友達は自分に対して300円の債権を持ちます。この状態で、「これでチャラな」というような意思表示があれば、お互いの債権は消滅します。いちいち自分が友達に300円を渡して、友達も自分に300円を渡す必要はないのです。
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