会社法入門2 株式会社の基礎

1 会社法を学ぶ視点

会社法は会社とその機関や会社関係者の権利義務について定めています。そこで、みなさんが会社法を学ぶにあたっては、以下の2つの視点を持っていただきたいところです。

  1. 何ができるのか
  2. 何故してはいけないとされるのか

まず、権利の定めからどのような権利があるのかを知るだけにとどまらず、その権利を行使することで何をすることができるのかを把握するようにしてください。その際には、その条文の趣旨を表面的に理解するだけではなく、制度全体においてどういう位置づけなのかを理解することが重要です。たとえば、358条は株式会社の業務の執行に関する検査役の選任について定めていますが、この条文自体は会社の業務・財産の状況を調査する術を一定の株主に与えたものと理解できます。もっとも、それだけではなく、この検査役による調査を通じて不正行為が発覚した際には、株主総会で取締役の解任を求めたり、株主代表訴訟を通じて責任追及を行ったりすることが想定されます。このように、制度全体における位置づけを理解することで、その権利の行使を通じて何を実現したいのかを知ることが会社法を読み解く上で重要になります。

次に、義務の定めから何をしてはいけないのかを知るだけでなく、どういう理由により禁止されているのかを理解するようにしてください。つまり、条文の趣旨を理解するように努めてほしいのです。会社法上の論点は、条文の趣旨を述べてその趣旨に沿う解釈をすることで足りることが多いです。たとえば、361条は取締役の報酬等について定款又は株主総会の決議で一定事項を定めなければならないとされていますが、これはいわゆるお手盛りを防止するという趣旨に基づきます。そうすると、取締役全員の報酬についての総額を決議すればお手盛りを防止することができるため、必ずしも個々の取締役の報酬について決議することまでを要しないという結論を導き出すことができます。このように、趣旨を理解して、趣旨からの解釈を身に着けることで会社法の多くの論点を処理することができるようになるため、しっかりと趣旨を理解しながら学ぶようにしてください。

さて、ここまで会社法入門ということで会社法全般についてイメージを醸成できるように解説をしてきました。ここからは、会社法の中でも特に重要な株式と機関について解説します。

2 株式の基礎

株式については、ざっくりと言えば以下の2つについて学ぶことになります。

  1. 株式の内容
  2. 株主の権利行使

①株式の内容については、まず、一種類の株式のみを発行するのではなく、複数の種類の株式を発行することができることを知っておく必要があります。このことにより、多様なニーズに応じた株式を発行することで柔軟な資金集めをすることが可能となっています。株式にはさまざまな内容を持たせることができるようになっています。たとえば、優先的に剰余金の配当を受けられる内容を定めたり、株主総会のすべての決議事項について議決権がないことを定めたり、会社の承認がなければ譲渡ができないことを定めたり、株主総会の決議により株式を買い取られてしまうことを定めたりすることができます。株式の内容については、条文だけを見ていてもその内容を株式に持たせることでどういうことが実現できるのかがわかりにくいので、条文ごとにどのような株式の内容が許容されてどういうことを実現できるのかを押さえておくことが重要になります。

②株主の権利行使については、株式の譲渡自由の原則(127条)が重要です。譲渡自由が原則となっているため、例外的にどのような制限があるのかを押さえていくことになります。これには、定款による譲渡制限、契約による譲渡制限、法律の規定による譲渡制限があります。また、株式の譲渡を会社や第三者に対抗するための要件として、名義書き換えを行う必要があります(130条1項)。その他、大量の株主の権利関係を処理できるように株主名簿の制度が用意されていたり、株式を共有するに至った場合の権利行使の方法などの定めもあります。

3 機関の基礎

機関については、ざっくりと言えば以下の3つを学ぶことになります。

  1. 機関設計
  2. 各機関の役割
  3. 役員の責任

まず、①機関設計については、会社法は完全な自由を認めているわけではありません。もっとも、全部で47パターンの機関設計があり得るため、一定の規制はありつつもかなり柔軟な機関設計を認めていると言えます。機関設計についてはすべてのパターンを押さえておく必要はなく、特定の機関の設置が必須とされる場合をその理由と共に押さえておけば足ります。たとえば、公開会社では、株式の譲渡を通じて株主が頻繁に交代することが予定されており、個々の株主による業務執行者の監視を期待しづらいため、業務執行を監視するための機関として取締役会の設置が義務付けられています。また、大会社では、計算書類の適正化を図ることで会社債権者を保護する必要性が高く、かつ会計監査人設置に伴う費用を負担する力があると考えられるため、会計監査人の設置が義務付けられています。

次に、②各機関の役割については、主として各機関の決議事項や権限を見ていくことになります。取締役会を設置しているか否かで大きく異なります。ここでは取締役会設置会社を念頭に少しだけ解説をします。株主総会は、取締役などの機関の選任・解任に関する事柄、定款変更・事業譲渡・合併などの会社の基礎的変更に関する事柄、剰余金の配当をはじめとする株主の重要な利益に関する事柄、取締役の報酬決定のように他機関の決定に委ねては株主の利益を害する可能性が高い事柄について決議事項とされています。取締役会は株主総会の決議事項とされている事柄以外の経営判断を行います。代表取締役は会社の対外的な業務の一切を行う権限を持つほか、株主総会や取締役会で決定したことを実行する業務執行権を持ちます。監査役や監査役会は株主に代わって取締役の経営をチェックする役割を担っています。その他、会計参与は会社の計算書類を作成し、会計監査人は会計の専門家として計算書類をチェックします。

最後に、③役員の責任については、役員等の会社に対する責任(423条)、役員等の第三者に対する責任(429条)、取締役の競業取引(356条1項1号)・利益相反取引(356条1項2号3号)が重要です。会社法入門1でも述べたように、会社は人と違って肉体や精神を持っていないので、会社は自力で活動することができず、誰かが会社の代わりに活動する必要があります。そして、この代わりをするのが取締役ら役員です。そうすると、役員のかじ取り次第で会社の業績が傾くことすらあります。役員として求められる注意義務(330条、民法644条)を尽くした上で結果的に会社の業績が傾いたのであれば仕方がありませんが、役員が任務を怠ったり自分の利益を図ったりすることにより会社の業績が傾いた場合にはその役員が責任を負うべきです。そこで、会社法には役員の責任に関する多くの規定が置かれています。こうした規定の中には、役員の責任を免除したり軽減したりする場合のルールも設けられています。