民法入門2 物権の基礎

1 物権の意味と考え方

(1)物権の意味

民法入門1で学んだ通り、物権は物に対する権利です。正確にいえば、物権とは、物を支配する権利のことをいいます。

物の支配には、交換価値の支配利用価値の支配とがあります。交換価値は、物を売却した場合にお金が得られるという価値のことを指します。交換価値を支配するということは、売却代金が自分の手元に入るということを意味します。

他方で、利用価値は、簡単にいえば、物を自分で使うという価値や他人に貸したりした場合にお金が得られるという価値のことを指します。利用価値を支配するということは、自分で物を使うことができたり、他人に貸してお金をもらったりすることができるということを意味します。このように、物権は物の価値を支配するのです。

(2)物権の性質と債権との違い

物権は、絶対効を持つといわれます。絶対効とは、誰に対してでも主張できる効力のことです。つまり。物権を持っているということは、物に対する権利を誰に対してでも主張できるのです。とえば、「この物はオレの物だ!」という主張は、Aさんにもいえますし、Bさんにもいえますし、何でしたら内閣総理大臣にもいえるのです。

これに対して、債権は相対効しか持たないといわれます。相対効とは、特定の人に対してのみ主張できる効力のことです。債権を持っていても、それに対応する債務を負う人に対してしか主張できなのです。たとえば、AさんがBさんの自転車を5000円で買い取るという売買契約を結んだとしましょう。この場合、AさんはBさんに対して自転車を引き渡せという債権を持ちます。AさんはBさんに対して自転車を引き渡せということはできますが、Cさんに対して自転車を引き渡せということはできません。自分の債権に対応する債務を持っているBに対してしか、自分の権利を主張できないのです。

  • 物権 → 絶対効 ⇒ 誰にでも主張可能
  • 債権 → 相対効 ⇒ 特定の人だけに主張可能

(3)物権の基本的な考え方

物権分野における基本的な考え方は次の3つです。

  • 所有権絶対の原則
  • 一物一権主義
  • 物権法定主義

所有権絶対の原則とは、所有権は何らの人為的拘束を受けないとの原則をいいます。簡単にいえば、所有権によくわからん制限がつくことはないですよという程度の意味です。昔は、土地を所有していることは、その土地を領土にしている領主からの支配を受けることを意味していた時代がありました。また、土地の権利(底土権)を取得しても上土権という権利によって年貢の提供を強制される時代もありました。そういった現代の感覚でいうと「わけのわからない制限」が所有権につくことはありませんよということなのです。

一物一権主義とは、物権の対象としての物は、独立性を備えた単一の物でなければならないとの原則をいいます。これは次の2つのルールを導きます。

  1. 物権の対象は1個の物として独立していなければならない
  2. 複数の物の上に1個の物権は成立しない

要するに、「ひとつの物にひとつの権利しか認めませんよ」という話なのです。

物権法定主義とは、物権は民法その他の法律に定めるもの以外に創設することができないとの原則(175条)をいいます。つまり、たとえ当事者の間で合意があったとしても、原則として新しい物権を創り出すことはできません。物権の内容を付け足すこともできません。この原則があるので、物権分野については当事者の合意より民法に書かれていることが優先する傾向があります。

ここでは、「物権は融通が利かないなぁ」というイメージを持っていただければと思います。

2 物権の種類

物権の種類は以下の通りです。頭に叩き込んでくださいね。

  • 物権
    • 所有権
    • 占有権
    • 用益物権
      • 地上権
      • 永小作権
      • 地役権
      • 入会権
    • 担保物権
      • 留置権
      • 先取特権
      • 質権
      • 抵当権

3 各物権の概要

(1)所有権

所有権とは、物の利用価値と交換価値の双方を支配することのできる権利をいいます。所有権は物を自由に使用・収益・処分できるオールマイティな権利です。

(2)占有権

占有権とは、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する物権をいいます。民法は占有をしている人に占有権という物権を与えています。占有とは、物を現実に支配していることをいいます。

たとえば、自転車の所有権を持っている人は、通常はその自転車を現実に支配していますので、占有権も持っていることになります。また、物を盗んだ人や他人が落とした物を拾った人でも、物を現実に支配していますので、占有権を持っていることになります。

(3)地上権

地上権とは、工作物・竹木の所有を目的として、他人の土地を利用できることを内容とする物権をいいます。たとえば、地下鉄をつくるにあたって、鉄道会社は、都心の土地の地下部分について所有権者から地上権を設定してもらうことがあります。鉄道会社は所有権者に地代として合意によって決めた金額を支払います。

不動産の賃貸借契約と似ていますが、長期間土地を利用したい場合には地上権が選ばれることがあります。この場合には物権の融通の利かなさが逆にメリットとなり、安定的な土地の利用権が確保できるからです。

(4)永小作権

永小作権とは、耕作または牧畜を目的として、他人の土地を利用できることを内容とする物権をいいます。江戸時代からの古い慣習が権利化されているだけで、現在ではほぼ利用されていないので、「永小作権という物権がある」とだけ理解しておけば十分です。

(5)地役権

地役権とは、ある土地の便益のために、他人の土地を利用することができることを内容とする物権をいいます。地役権は通行地役権という形でよく利用されています。たとえば、道路に出るためにある土地の所有者が隣の土地を通行する場合に、通行のための地役権を設定するといった形で利用されます。

(6)入会権

入会権とは、入会集団の構成員が山林原野・漁場・池・用水等を共同で管理し、使用収益することができる物権をいいます。たとえば、村民全員で山を共同で使用し・管理している場合には、村民全員に入会権が認められます。

永小作権と同じく江戸時代からの古い慣習が権利化されたもので、「入会権という権利がある」とだけ理解しておけば十分です。

(7)留置権

留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまでその物を留置することによって、債権の弁済を心理的に強制することができる権利をいいます。

たとえば、車のエンジンが故障したということで車屋に車の修理を依頼したとします。このとき、車屋は留置権の行使として「修理代を支払うまでは車は返さない」ということができます。これにより、車を返してほしいと考える依頼者に対して支払いを強制することができるというわけです。

(8)先取特権

先取特権とは、法律の定める一定の債権を有する者が、債権の弁済がされないときに、法律の定める債務者の一定の財産の交換価値から、法律上当然に、他の債権者に優先して自己の債権の満足を受けることができる物権をいいます。たとえば、ある会社に雇用されている従業員の給料が未払いとなった場合に、他の債権者に優先して会社から支払いを受けることができます(306条2号)。

私が初学者だった頃、先取特権は最もイメージするのが難しい権利でした。簡単にいえば、さまざまな事情により他の債権よりも優先すべき債権には先取特権という物権がつき、その債権を他の債権よりも優先的に回収することができるようにしているということなのです。

(9)質権

質権とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を留置して被担保債権の弁済を間接的に強制し、被担保債権が弁済されない場合にはその物の交換価値から他の債権者に優先して自己の債権の満足を受けることができる物権をいいます。

たとえば、今月はちょっと生活が苦しいということで質屋に行ったとします。そこで自分が持っている高級時計を質に入れてお金を借りるのは質権の設定です。その後、借りたお金を返せなくなった場合には、質物である高級時計を競売にかけて、落札した人が支払う代金から回収をします。

質屋営業法では流質契約が認められているので(19条)、お金を貸す際に、お金を返せなかった場合には質屋が質物の所有権を取得し、それによってお金を返したことにするという約束をしておくことが多いです。

(10)抵当権

抵当権とは、債務者または第三者から特定の不動産を担保にとり、被担保債権が弁済されない場合にはその不動産の交換価値から他の債権者に優先して自己の債権の満足を受けることができる物権をいいます。

たとえば、「あこがれのマイホームを買うぞ」ということで住宅ローンを組むことになったとします。この場合、ほとんどのケースで、銀行は住宅ローンを組む人が購入する土地や建物に抵当権をつけます。住宅ローンを組んだ人がローンを返せなくなったら、抵当権を実行して、土地や建物を競売にかけて、落札した人が支払う代金から回収をします。

4 物権変動

民法入門1では、民法で学ぶ事柄を一言でいうと「権利変動」なのだと記載しました。権利変動の物権バージョンが物権変動です。物権変動とは、物権の発生・変更・消滅を意味します。

ここでは、物権変動原因について、簡単にみておくことにしましょう。詳しい内容は入門が終わってから学んでみてくださいね。

(1)物権の発生原因

物権の主な発生原因は、他人からの承継です。たとえば、自動車屋との売買契約によって自動車の所有権を取得したり、相続によって先代からの土地を取得したりします。その他の物権の発生原因として、原始取得があります。これをまとめると以下の通りです。

  • 物権の発生原因
    •  承継取得 前主の権利を承継する
      • 特定承継 他人の権利義務を個別的に承継する (ex.契約)
      • 包括承継 他人の権利義務をまとめて承継する (ex.相続、遺贈)
    • 原始取得 前主の権利とは無関係に権利を取得する (ex.即時取得、無主物先占、遺失物拾得、埋蔵物発見、添付、取得時効)

(2)物権の変更原因

物権の変更とは、物権の同一性を保ったまま、物権の内容や客体が変わることをいいます。物権の種類によって変更原因はさまざまです。たとえば、抵当権の順位の変更や、地上権の存続期間の変更がこれにあたります。

(3)物権の消滅原因

物権の消滅原因は、目的物の滅失、放棄、消滅時効、混同などです。




kubota
いかがでしたでしょうか。物権ってなかなかのカタブツですよね。とりあえず、この段階で物権と債権の違いと物権の種類は確実に押さえましょう!



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