暗記が苦手な人に試してほしい5つの暗記方法

はじめに

司法試験や予備試験の受験勉強でみなさんを悩ませるのが、定義や要件などの暗記ではないでしょうか。これらの試験では、たくさんの定義や要件などを正確に覚えなければなりません。今日では、「暗記より理解だ」と言われることもあり、一見、暗記が必要な事項は少ないように思えます。それでも、最低限度これは覚えていないと答案を書けないといった事項があります。

たとえば、刑法の窃盗罪の要件として、不法領得の意思というものがあります。これについては、それが必要であるということも、その内容も条文には書かれていません。このように、覚えていないと答案を書けないということがいろんな箇所で出てくるのが予備試験・司法試験の受験勉強です。この際はっきり言いますが、受験勉強において暗記しなければならないことはかなり多いです。

今回は、みなさんを悩ませ続けるそんな暗記事項について、暗記が苦手な人に試してほしい暗記方法を5つ用意しました。これらの方法は目新しいものではありません。しかし、実際に暗記をする上では、これらの方法を組み合わせながら効率よく取り組むのが大事です。この動画では、暗記方法の使い方や組み合わせ方も記載しますので、最後まで見てみなさんの受験勉強に役立てていただければと思います。

1 理解する

人は理解を伴わない暗記が苦手だと言われます。たとえば、円周率を覚えろと言われても、多くの人は覚えることが困難です。円周率はただただ数字の羅列が続いていますので、理解をすることができません。つまり、円周率を覚えるのが難しいのは理解を伴わないからなのです。

逆に、民法の私的自治の原則を覚えろと言われたらどうでしょうか。「自分の意思に基づき自らの生活関係を形成できるとの原則」だと丸暗記する方もいらっしゃるとは思います、しかし、僕はこのようにして覚えます。まず、「要するに自分で決めることができるってことだね」と理解して、同時に「何について決めることができるのだろう」という疑問が生じます。次に、「私的な生活関係に関して自分で決定することができる」のだと理解します。そうして、「自分の意思に基づき自らの生活関係を形成できるとの原則」だと理解し、これを覚えることができます。この場合は、たとえ忘れても記憶の引き出しがあるから思い出しやすいです。

つまり、理解をして覚えるということは、覚えやすくもなるし、覚えたことを引っ張り出しやすくなるという2つの意味で重要です。理解をするという方法については、どの暗記方法とも組み合わせることができるので、暗記をする場合には理解をするように心がけてください。

2 パーツに分ける

法律の定義や要件などの中には、とても長いものがあります。たとえば、民事訴訟法の自己利用文書をご存知でしょうか。一応簡単に説明すると、民事訴訟法には文書提出命令という制度があって、文書を持っている人に対して強制的に文書を証拠として提出させることができますが、自己利用文書というものに該当するとその文書を提出する必要がありません。

この自己利用文書は、判例上、こうのようなものだと言われています。つまり、「もっぱら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められ、自己利用文書該当性を否定する特段の事情がない」というすべての要件に該当するものが自己利用文書にあたると考えられています。

長いですよね?

「いや、これくらい余裕だろ?」と感じた方は、この記事はお役に立てないのではないかと推察しますので、他の記事を見るか受験勉強の続きを頑張っていただければと思います。ともかく、多くの人はこういう長い定義や要件を覚えるのは苦手なのではないかと思います。こういった長いものは、パーツに分けて1つ1つの記憶の負担を下げるのが重要です。

自己利用文書で言うと、大きく分けて3つのパーツに分かれます。1つ目は、「もっぱら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって」という部分です。この部分について「外部非開示性」と呼んだりします。まず、外部非開示性という単語を覚えて、記憶の引き出しを持ちます。その後、「外部への開示が予定されていないんだなぁ。自分で利用しようと思っている文書だから当然か」などと理解しながら、正確に記憶していきます。

他のパーツについても、「開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められ」という部分は「不利益性」と呼ばれているのを確認して、「不利益がないなら確かに公開してもいいよね」などと理解しながら記憶します。

また、「自己利用文書該当性を否定する特段の事情がない」という部分は「特段の事情の不存在」と呼ばれているのを確認して、どういう場合に特段の事情があるとされるんだろうという疑問をもって、それを調べて理解しながら記憶します。

自己利用文書=もっぱら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められ、自己利用文書該当性を否定する特段の事情がないもの
       ↓パーツごとに分解
①外部非開示性=もっぱら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、
②不利益性=開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められ
③特段の事情の不存在=自己利用文書該当性を否定する特段の事情がないもの

このように、長いものについてもパーツに分けて覚えることで、理解しながら覚えやすくなるし、記憶の負担も減らせます。また、思い出すときの記憶の引き出しをつくることもできるのです。長いものをそのままの形で無理やり頭に詰め込むのではなく、覚えられるサイズに分解して覚えるようにするのがオススメです。

3 繰り返し読む

ザ、王道の方法で「テクニックと言えるの…?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。全くもってその通りで、テクニックと呼べるような代物ではありません。ただ、誰に何を言われようと、繰り返し読むことが単体の方法論としては最も効率よく暗記を進める方法だと確信しています。大切なので強調しておきますが、単体の方法論としては最強ということです。これを強調した理由は後ほど説明します。

さて、繰り返し読むという暗記法のメリットは、1回あたりの時間の短さにあります。暗記法としてよく挙げられるのは紙に書くという方法ですが、たとえば定義を1回書き上げるのと、1回読むのとでは、書く方が3倍以上の時間がかかることが多いです。つまり、1回書くのに使う時間で、3回以上読めるということです。要するに、繰り返し読むというのは超効率的な方法なのです。

しかし、繰り返し読むことにはデメリットもあります。強烈な睡魔に襲われるということです。暗記は単純作業になりがちで、ただでさえ眠いのに、繰り返し読むのはその中でも1・2を争うくらい眠くなりがちな勉強法です。眠さを我慢しつつ続けることができればそれでいいのですが、できない人も多いと思います。たとえてみれば、絶対に眠ってはいけないというゲームをしていて、布団の中で睡魔に耐えているようなものです。ただ繰り返して読むというのはそれくらいの睡魔に襲われる勉強法なのです。

私も受験生時代に繰り返して読むことの効率の良さはわかりつつも、どうしても続けることができませんでした。続けるには工夫が必要だったのです。その工夫の1つが、漫然と読むのをやめたということです。ただ漫然と読むのではなく、それがどういう意味を持つのかを考えたり、どういう場合にその定義や要件などにあてはまるのかを考えながら読んだりすると、少し眠さがマシになります。また、読むときに声を出してみるというのも眠さがマシになります。

4 紙に書く

これも割と王道の方法ではないでしょうか。先ほどもお話ししたように、紙に書く方法は読むことと比べるとかなり時間がかかります。しかしながら、読むのと比べたときに圧倒的に大きなメリットもあります。

そのメリットの1つは、眠くなりにくいということです。先ほど、繰り返し読むと強烈な睡魔に襲われるという話をしましたが、紙に書くことは一応手の動作が入るので、睡魔をかなり抑えることができます。このメリットを利用して、繰り返し読むことを中心としながらも、要所要所で書くという方法がおすすめです。なぜなら、効率と睡魔の軽減のバランスがとれているからです。

書くことのもうひとつのメリットは、暗記したことを頭では忘れていても手が覚えていることがあるということです。つまり、身体で覚えることができるというメリットがあるのです。これは、スポーツをしていた人にとっては経験があるのではないかと思います。たとえば、100m走の選手が一時期走るのをやめていて、走るのを再開したとしましょう。この場合でも、その選手はそこそこ早く走れます。それは、身体が走り方を覚えているからなのです。繰り返しおこなって定着した動きは身体が記憶しています。この例と同様に、文章であっても手を動かして書くことを通じて身体で覚えてしまえば、頭では忘れてしまっても実際に答案を書いているうちに思い出せることがあります。

このように「読む」と「書く」のそれぞれのメリットを生かして、効率的に暗記を進めてほしい。

5 繰り返し聞く

最後に聞くという方法についてです。それこそ今では見ないラジカセの時代から聞いて覚えるという方法は用いられてきました。しかし、昔から聞いて覚えるための教材は非常に高価でした。今は、文明の発達により、スマホという最強のツールができました。録音アプリを使って自分で録音すれば繰り返し聞くための教材が完成します

人間は外の出来事を感じ取るのに五感を使います。ご存知の通り、五感というのは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のことです。この五感のできるだけ多くを暗記に関わらせることで、暗記という単純作業の飽きを少なくし、記憶の引き出しを多く持つことができる。そうだとすると、繰り返し聞くことで耳も使うべきと言えます。読む・書く・聞くをフルに活用して、視覚、聴覚、触覚(の一部)を暗記に関連させるべき。

6 結語

さて、ここまで5つの暗記テクを話してきましたが、司法試験や予備試験の合格を目指すにあたって、暗記というのは勝負の土俵に立つためのものです。最低限度の概念を暗記していないと土俵にたてませんが、一方で、それを暗記できたとしてもその概念を使いこなすことが必要です。

つまり、以下の3ステップが必要なのです。

  1. 基本書を読んだり予備校の基礎講座を受講したりして概念を知る
  2. その概念を理解して覚える
  3. その概念を使いこなせるようにトレーニングを積む

今回の暗記の話は、上記②の話ですのでお間違えのないようお願いします。

なお、まだ概念を知るという①の段階の人は、私が出している基礎講座の利用も検討していただければと思います。私が7科目とも教えますし、業界最安水準で提供中です。興味のある方は、以下の記事をご参照ください。

久保田メソッド基礎講座【累計300人以上が受講】

さらに、概念を使いこなせるようにトレーニングを積む③の段階の人には、私が出している判例百選講座の利用も検討していただければと思います。判例百選掲載判例を短文事例問題化した上で、それぞれに答案を付けて解説しているので質・量ともにトレーニングに最適の講座です。興味のある方は、以下の記事をご参照ください。

久保田メソッド判例百選講座【アウトプットの決定版】

kubota
司法試験・予備試験において勝負の土俵にたつために、この記事の内容を役立てていただければ幸いです。