1 法律行為の概念
(1)法律行為を学ぶ意味
法律行為や意思表示といった言葉が民法のさまざまなところで登場します。そのため、今の段階でその意味を知っておくことで、学習をスムーズに進めることができますので、説明しておきますね。
(2)法律行為とは
法律行為とは、当事者の意思に基づいて権利の変動という法的な効果が認められる行為をいいます。法律行為には、単独行為、契約、合同行為の3つがあります。たとえば、売買契約は一方の「買う」という意思と他方の「売る」という意思が合致することにより、目的物引渡請求権と金銭支払請求権が発生する法律行為です。
法律行為は意思表示を不可欠の要件としています。意思表示とは、権利変動という法的効果を発生させようという意思を外部に示す行為をいいます。つまり、「買います!」「あげます!」といった発言や書面への記載等を意思表示と呼んでいるのです。
(3)法律行為の種類
単独行為とは、一方の者の意思表示だけで成立する法律行為をいいます。たとえば、取消しの意思表示、追認の意思表示、契約解除の意思表示、債務免除の意思表示、遺言などがこれにあたります。つまり、取消しや解除は相手方がそれに納得しなくてもできるのです。
契約とは、複数当事者の意思表示が合致することにより成立する法律行為をいいます。申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することにより成立します。民法入門3で学びましたが、たとえば、売買、贈与、賃貸借、請負契約、委任、和解などがこれにあたります。
合同行為とは、複数当事者の内容と方向を同じくする複数の意思表示が合致することによって成立する法律行為をいいます。社団設立行為を説明するために作られた概念ですので、登場機会は少ないです。
- 法律行為
- 単独行為
- 契約
- 合同行為
2 意思表示のトラブル
(1)意思表示のトラブルとは
意思表示の際に、相手方に対して自分が内心で思っている通りに伝えることができる場合もあれば、そうでない場合もあります。いろんな事情により買う気がないのに「買う」と言ってしまった場合のように、内心とは異なる意思表示をしてしまった場合には、困ったことになってしまいます。そんな場合に備えて、民法は心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫の5つのルールを用意しています。
(2)心裡留保
心裡留保とは、真意でない意思表示であって、表意者が表示と真意の不一致を認識している場合をいいます。一言で表せば、ウソや冗談の類です。たとえば、冗談で「車をあげるよ」と言うのは、真意では車を譲る気がないにもかかわらず、車を譲るとの表示をしていることから、心裡留保にあたります。
心裡留保にあたる場合、原則として意思表示は有効とされます。ただし、例外として、真意と表示の不一致について、相手方に悪意または過失があった場合には、意思表示は無効とされます。これには例外の例外があり、心裡留保による意思表示の無効は善意の第三者に対抗できません。
悪意 あることを知っていること。心裡留保でいえば、契約当時相手方が表意者の真意と表示の不一致について知っていること。
善意 あることを知らないこと。
対抗 表意者側からは無効を主張できないということ。第三者側からは有効と主張することも無効と主張することも可能。
- 心裡留保
- 原則 有効
- 例外 無効
- 例外の例外 善意の第三者に対抗不能
(3)虚偽表示
虚偽表示とは、真意でない意思表示であって、意思表示の相手方との間に通謀があった場合をいいます。通謀虚偽表示と呼ばれることもあります。要するに、一緒になってウソをついている場面です。たとえば、強制執行を逃れるため、買主と売主とで協力して土地を売ったことにするという事例は、買主と売主との間の通謀のうえで真意でない意思表示をしていることから、虚偽表示にあたります。
虚偽表示にあたる場合、原則として意思表示は無効とされます。ただし、例外として、虚偽表示による意思表示の無効は善意の第三者に対抗できません。
- 虚偽表示
- 原則 無効
- 例外 善意の第三者に対抗不能
(4)錯誤
錯誤とは、表意者の認識しないところで表意者の主観と現実との間に食い違いがある場合をいいます。一言で表せば勘違いです。たとえば、1ダースを1本のことだと勘違いして「鉛筆5ダースを買う」と言った場合、表意者の主観(=鉛筆5本)と現実(=鉛筆60本)との間に食い違いがあり、それを表意者が認識していないため、錯誤にあたります。
法律行為の重要な部分に錯誤がある場合、原則として意思表示を取り消すことができます。ただし、例外として、錯誤による意思表示の取消しは善意無過失の第三者に対抗できません。
- 錯誤
- 原則 取消可能
- 例外 善意無過失の第三者に対抗不能
(5)詐欺
詐欺とは、人を欺罔して錯誤に陥らせる行為をいいます。簡単に言えば、騙して勘違いさせるということです。たとえば、本当はそんな話がないにもかかわらず「近々この土地の近くに駅ができる」などとウソをついて、駅ができるから土地の価格が上がると勘違いさせて土地を売ることは、人を欺罔して錯誤に陥らせているため、詐欺にあたります。
詐欺にあたる場合、原則として意思表示を取り消すことができます。ただし、例外として、詐欺による意思表示の取消しは善意無過失の第三者に対抗できません。
- 詐欺
- 原則 取消可能
- 例外 善意無過失の第三者に対抗不能
(6)強迫
強迫とは、違法に害悪を示して畏怖を生じさせる行為をいいます。簡単に言えば、脅してビビらせるということです。たとえば、「オレのバックにはヤクザがついている。逆らうとどうなるかわからない」と言って物をタダで譲り受けることは、違法に害悪を示して畏怖を生じさせるため、強迫にあたります。
強迫にあたる場合、意思表示を取り消すことができます。強迫による意思表示の取消しに関して、第三者を保護する条文はありません。
(7)関連事項――無効と取消しの違い
意思表示のトラブルの際に、無効となる場合と取消しとなる場合とがありましたが、両者の違いは何にあるのでしょうか。
無効の場合にははじめから効力がなかったことになります。契約で言えば、そんな契約は最初から無かったという扱いになるのです。他方で、取消しの場合には取り消されるまでは有効で、取消しをした時点でさかのぼって無効となります。そのため、契約で言えば、取消しをするまでは契約は有効と扱われますが、取消しをするとそんな契約は最初から無かったという扱いになります。
(8)意思表示のトラブルまとめ
原則 | 例外 | |
心裡留保 | 有効 | 無効(ただし第三者保護規定) |
虚偽表示 | 無効 | 対抗不能 |
錯誤 | 取消可能 | 対抗不能 |
詐欺 | 取消可能 | 対抗不能 |
強迫 | 取消可能 | なし |
3 代理とトラブル
(1)代理とは
代理とは、本人と一定の関係にある他人(代理人)が、本人のために意思表示をし、または意思表示を受領することによって、法律行為の効果が本人に帰属することを認める制度です。つまり、「A代理人B」が締結した契約がAの契約になるということです。
(2)代理のトラブルと無権代理
本人が代理人に対して代理権を与えていて、代理人がその代理権の範囲内で契約を締結した場合には、その契約の効果は問題なく本人に帰属します。
他方で、代理権が与えられていないにもかかわらず「代理人だ」と言って契約をするケースや、与えられた代理権の範囲を超えて契約をしてしまうケースがあります。これらのケースは、いずれも本人が代理権を与えていない内容の契約をしているケースですので、本人に契約の効果を帰属させる理由がありません。そのため、これらのケースでは原則として本人に契約の効果は帰属しません。
(3)表見代理
上述の通り、無権代理の場合には本人に効果帰属しないのが原則です。しかし、例外として、次の3つの場合には本人に効果帰属します。
- 代理権授与表示による表見代理
- 権限外の行為の表見代理
- 代理権消滅後の表見代理
いずれも代理人と取引をした人が代理権を信頼して、なおかつ本人に何らかの落ち度がある場合です。詳しくは民法の学習を進める中で学んでくださいね。
4 権利の譲渡とトラブル(対抗要件)
(1)権利の譲渡とトラブル
権利を譲渡する場合、通常であれば特に問題なく権利の譲渡が実現できます。しかしながら、この場合にもトラブルが起こることがあります。たとえば、AさんがBさんに土地を売ったとします。他方で、AさんはCさんにも同じ土地を売るという事例があります。二重譲渡と呼ばれる事例ですが、この事例だと実際に土地を手にするのはBなのかそれともCなのかという問題が生じます。こういうトラブルに対しても民法は解決法を用意しています。
ざっくりと言えば、このような二重譲渡の事例を対抗問題と呼んでおりまして、対抗要件を備えたほうが勝つと考えられています。以下ではもう少し具体的に学んでみましょう。
(2)不動産譲渡
(1)でみた不動産の二重譲渡の事例では、どのようにして所有者を決めると思いますか?こうした場合、基本的には登記によって判断することになります。登記が対抗要件とされているのです。登記とは、不動産に関する権利関係につき、国家機関が所定の手続により登記簿に記載することや、その記載内容のことをいいます。つまり、登記上に所有者として記載されているかどうかで判断をすることになるのです。
たとえば、AがBとCに同じ土地を売ったという(1)の事例で、Bが登記に所有者として記載されたのであれば、Bがその土地の所有権を確定的に取得できます。この場合、Cは土地の所有権を取得することができません。もっとも、AはCに対して「土地を売る」と言ったにもかかわらず土地の所有権を移転できなかったのですから、CはAに対して契約違反の責任を追及することができます。
(3)動産譲渡
土地や建物などの不動産の二重譲渡と動産の二重譲渡の事例では、民法は別々の解決法を用意しています。(2)で見た通り、不動産は登記を基準に判断するとのことでした。では、動産は何を基準に判断するのでしょうか。
それは、「引渡し」されたかどうかによって判断します。つまり、引渡しが対抗要件とされているのです。たとえば、Aが自分の自転車をBとCに売ったという事例で考えてみましょう。この場合に、引渡しを受けたほうが自転車の所有権を確定的に取得することになります。引渡しは以下の4つの方法があります。
- 現実の引渡し
- 簡易の引渡し
- 占有改定
- 指図による占有移転
ひとまず、今の段階では現実の引渡しを知っておけば十分です。現実の引渡しとは、所持を移転することです。自転車であれば、実際に自転車とカギも手渡すことが現実の引渡しです。ですので、上の事例で、AがBに対して自転車と鍵を手渡したのであれば、Bが自転車の所有権を確定的に取得することになります。この場合、Cは自転車の所有権を取得することができません。もっとも、AはCに対して「自転車を売る」と言ったにもかかわらず自転車の所有権を移転できなかったのですから、CはAに対して契約違反の責任を追及することができます。
(4)債権譲渡
物だけではなく、債権も譲渡することができます。そのため、債権でも二重譲渡の問題が起こることがあります。では、債権の二重譲渡の場合、何を基準に判断するのでしょうか。
それは、「通知」または「承諾」により判断します。厳密にいうと、確定日付のある証書による通知・承諾が第三者対抗要件とされています。たとえば、AがZに対する債権をBとCに売ったという事例で考えてみましょう。この場合、内容証明郵便などの確定日付のある証書によってAがZに債権譲渡について通知をするか、確定日付のある証書によってZが債権譲渡について承諾をするかのどちらかを充たした方が確定的に債権を取得することになります。
ですので、AがBに対して債権を譲渡したということを内容証明郵便でZに通知した場合、Bが債権を確定的に取得することになります。この場合、Cは債権を取得することができません。もっとも、AはCに対して「債権を売る」と言ったにもかかわらず債権を移転できなかったのですから、CはAに対して契約違反の責任を追及することができます。
債権譲渡は債務者対抗要件と第三者対抗要件という区別がありますが、詳しくは民法を学習を進める中で学んでくださいね。
5 契約上のトラブル
(1)契約のトラブル
世の中の多くの契約は、契約内容通りに履行されます。しかし、予期せぬトラブルに見舞われて、履行できなくなることがあります。たとえば、交通事故により配達業者が予定していた配達ができないといったことがあります。そんな場合に、配達ができない結果、予定していた配達先が損失を負ってしまうこともあります。また、契約をした人がわざと契約内容通りに履行しないこともあります。このように契約をめぐってトラブルが発生しうることを前提として、民法はいくつかのルールを用意しています。
(2)債務不履行
債務を履行できなくなったり、履行が遅れてしまうことを債務不履行といいます。債務不履行の場合には、債権者は債務者に対して、債務不履行を理由とする損害賠償を請求することができます。つまり、債務不履行によって被った損失についてお金を請求することができるということなのです。ただし、債務不履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」(415条但書)による場合には、債務者は損害賠償責任を負いません。
また、債務不履行を理由とする契約の解除をすることができます。契約の解除とは、債務者に対する一方的意思表示によって契約を終了させることをいいます。
契約をした当事者の一方が債務不履行に陥ってしまっても、他方の当事者は引き続き債務を履行する義務を負います。この債務を免れるために債務不履行に陥っていない側の当事者が解除を行うのです。
債務不履行に基づく損害賠償請求や解除の要件の詳細については、民法の学習を進める中で学んでくださいね。
(3)契約不適合責任
売買契約をはじめとする有償契約では、契約に適合しない物を引き渡さなければなりません。契約に適合しない物を引き渡した債務者は、契約不適合責任を負うことになります。逆にいえば、契約に適合しない物を引き渡された債権者は、一定の要件の下で次の権利を取得します。
- 追完請求権
- 代金減額請求権
- 損害賠償請求権
- 解除権
追完請求権は引き渡された物を修理してもらったり、代わりの物を引き渡してもらったり、不足分を引き渡しもらったりすることで、履行の不十分だった部分を補完してもらう権利です。
代金減額請求権は、その名の通り代金の減額を請求する権利です。損害賠償請求権は損害分を金銭で請求するものですし、解除権は契約を解除する権利です。
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