会社法入門1 会社法の全体像

1 会社法とは

会社法とは、会社の利害関係者の利害の調整のためのさまざまなルールをいいます。会社は、融資をした銀行、出資をした投資家、取引をした消費者などさまざまな人々と関係を持つことになるので、会社とこれらの人々との間のトラブルを予防したり解決したりするためのルールが必要なのです。

実は、上記の意味での会社法は「会社法」という名前の法律に限られません。たとえば、以下の法律も会社の利害関係者の利害の調整のためのルールを定めています。

  • 民法
  • 商法
  • 消費者契約法
  • 独占禁止法
  • 法人税法
  • 金融商品取引法

しかし、これらの中でも最も重要となるのが「会社法」という法律なのです。会社法入門では、「会社法」という法律のしくみについて学んでいきます。

2 会社の成り立ち

ところで、そもそも「会社」というものは必要なのでしょうか。この問いに関連して、会社という制度がどのようにして誕生したのかを見ていきましょう。今の会社の原型となっているのは1600年頃にできた東インド会社です。大航海時代のイギリスでは香辛料が宝石のように高価でした。ところが、インドでは香辛料の原料となる草や木の実がそこらじゅうに自生していました。そのため、インドに航海し、スパイスの原料を収集し、イギリスに持ち帰れば巨万の富を手に入れることができたのです。
しかしながら、航海にはさまざまなリスクがつきまといます。まず、航海のためには船を用意しなければなりません。船を用意するためには大きな財産を必要としますが、そのような財産を用意できる人は限られています。また、仮に船を用意できたとしても、航海の失敗によりリターンを得られなかったり、最悪の場合には船の沈没により命を失う危険があります。
これらのリスクを一人で背負うことはなかなかできません。そこで、一攫千金を狙い船に乗る乗船者とリターンを得るためにお金を出す出資者とでリスクを分け合うことになりました。ここで、お金を出すのは一人の出資者に限られるわけではありません。お金持ちがお金を出し合って船を購入し、乗船者に賃金を支払うことで金銭的リスクを小さくすることができます。このようにして、貿易をするための共同体を設立するようになり、株式会社が誕生しました。
ここで、上記にいう乗船者が起業家、出資者が投資家の原形となっています。そして、会社は主として利益を上げてその利益を分配するためのシステムであることはその誕生時から変わっていません。つまり、株主(出資者)が株と引き換えに出資したお金を使用して、取締役(起業家)が事業活動により利益を上げて、その利益を株主に分配するというシステムが株式会社なのです。

3 会社法の構造

(1)会社法の構造

会社法は以下の順で会社に関するルールを定めています。

  • 第一編 総則
  • 第二編 株式会社
  • 第三編 持分会社
  • 第四編 社債
  • 第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付
  • 第六編 雑則
  • 第七編 罰則

大雑把に整理すると、第二編と第三編は会社の運営(ガバナンス)について、第二編と第四編はお金の集め方(ファイナンス)について、第五編はM&Aなどの事業再編について、第一編・第六編・第七編は会社の共通事項について定めています。

(2)株式会社法の構造

会社は大きく分けて株式会社と持分会社とに分かれます。持分会社は合名会社・合資会社・合同会社の総称です。株式会社と持分会社とを比較すると株式会社のほうが圧倒的に数が多いです(平成31年時点で株式会社は約250万社あるのに対し、持分会社は約12万社しかありません。)。そのため、持分会社と比較して株式会社に関するルールのほうがより重要となります。そこで、株式会社に関するルールも見てみましょう。

  • 第一章 設立
  • 第二章 株式
  • 第三章 新株予約権
  • 第四章 機関
  • 第五章 計算等
  • 第六章 定款の変更
  • 第七章 事業の譲渡等
  • 第八章 解散
  • 第九章 清算

第一章から第九章までをよく見ると、会社法は会社のはじまり(設立)から終わり(解散・清算)までについて定めを置いていることがわかります。それぞれについて見ておきましょう。

第一章設立は、新しく会社を作る場合の手続を定めています。大まかに言えば、①定款を作成し、②出資をし、③経営者などを選び、④登記を行うことで新しく会社を作ることができます。2の例で言えば、①会社の名前やいくらの出資を集めるかなどの基本的なルールを定めて、②出資者がお金を出し合って、③船長や乗船者を選んで、④登記を行うという手順をたどって会社を設立することになるでしょう。

第二章株式は、株式の内容や株主の権利義務に関する事項など株式全般のルールについて定めています。株式の内容については多くの選択肢の中から会社のニーズに応じて決定することができるようになっています。たとえば、優先的に配当を受けられる株式や譲渡の制限を受ける株式を発行することができます。株主の権利義務に関して、株式は原則として自由に譲渡できます(127条)。ただし、定款・契約・法律の規定により株式の譲渡が制限されることがあります。

第三章新株予約権は、新株予約権の内容や新株予約権者の権利義務に関する事項など新株予約権全般のルールについて定めています。新株予約権とは、株式会社に対して行使することによって、当該会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます。簡単に言えば、後出しジャンケンで株を買えるという権利です。つまり、新株予約権の発行を受けていれば、その後に株価が上がれば新株予約権を行使して株式を取得することで差額分の利益を得ることができますし、一方で株価が下がれば新株予約権を行使しないという選択をとることができます。このような新株予約権についてのルールの多くは株式のルールと似通っています。

第四章機関は会社の組織と運営に関する事項について定めています。会社の組織に関して、機関設計について多くの選択肢(全部で47通り)の中から会社のニーズに応じて決定することができるようになっています。最小の構成では取締役と株主総会のみで会社を経営することが許容されています。他方で、監査役、会計参与、会計監査人などの他の機関を設けたり、取締役会、監査役会などの意思決定機関を設けることもできます。会社の運営に関しては、株主総会の決議事項や取締役の権利義務などが定められています。
第五章計算等は会社の財政状態や経営成績の開示や株主に対する利益の分配についてのルールを定めています。株主に対する利益の分配は配当という形で行われることが多いです。配当を行うことは会社財産の外部への流出を意味するので、配当にあたっては会社債権者の保護する必要があります。そこで、会社法は、資産が負債を超えた分だけを株主に分配することができるという資本制度を採用し、分配可能額規制(431条2項、計算規則186条)や財源規制(458条)を設けることで会社債権者の保護を図っています。
第六章定款の変更は、定款が変更できる旨定めています。ちなみに、第六章は466条のみが配置されています
第七章事業の譲渡等は、会社が事業を譲渡する場合のルールについて定めています。事業の譲渡とは言っても、その中身は基本的には金銭を対価に事業を売るという売買契約です。ただし、株式会社が事業の全部または重要な一部を譲渡すると、その事業により利益をあげることができなくなるため、株主の利益に重大な影響を与えます。そこで、会社法は、原則としてこれらの事業の譲渡にあたって株主総会の特別決議による承認を必要としています(467条1項1号2号)。
第八章解散は、会社の法人格を消滅させるための手続について定めています。また、第九章清算は、解散に続いて行う債権取り立て、債務の弁済、残余財産の株主への分配などの法律関係の後始末の手続について定めています。

4 会社法で学ぶこと

(1)会社法のイメージ

会社は人と違って肉体や精神を持っていないので、会社は自力で活動することができず、誰かが会社の代わりに活動する必要があります。実は、こうした会社の構造はガンダムやマジンガーZなどのロボットアニメに似ています。つまり、ロボットはパイロットが操縦することではじめて動くことができますが、会社も人間が操る必要があるのです。そこで、会社とガンダムとを対比しながら会社法のイメージを掴んでいくことにしましょう。

まず、ガンダムがなければ話が始まりませんので、ガンダムがない場合にはガンダムの製作からはじまるはずです。これと同様に、会社がない場合には会社を作るところからはじまります。会社を作ることを「設立」といいます。会社法は第二編で設立についてのルールを定めています。

次に、ガンダムを製作するにあたっては大金が必要になるはずです。もちろん、一人でガンダム製作費用を捻出できれば何の問題もありませんが、なかなかそういうわけにもいきません。そうすると、外部からお金を集めてくる必要があります。これと同様に、会社もお金を集めて事業をし、その事業から利益を得ます。株式会社であれば、お金と引き換えに株式(≒会社の所有権)をさまざまな人に発行するという方法でお金を集めることができます。会社法は第二編で株式会社についてのルールを定め、その第四章には株式についてのルールを定めています。

続けて、ガンダムのパイロットを決めなければなりません。ここでは、ガンダム製作にあたっていくらお金を出したかという観点よりは、ガンダムの操縦がどれくらい上手いかという観点でパイロットを決めるのが合理的でしょう。そうしないと、せっかく完成したガンダムを下手な操縦で壊してしまうかもしれないからです。これと同様に、会社も取締役を決めて、取締役が会社の舵取りを行います。取締役には大きな裁量が与えられていますので、その暴走を食い止める仕組みが必要です。会社法は第二編第四章に機関という項目を置いて、そこに組織体制や取締役の暴走を抑えるためのルールを定めています。

その他、ガンダムのパイロットが上手く操縦できたのかを評価するのと同様に、会社の経営について評価を行う必要があります(計算)。また、ガンダムを廃棄する際には適切に処理する必要があるのと同様に、会社を終了する際には後始末をする必要があります(解散・清算)。

このように、会社法は会社のさまざまな段階において必要なルールを定めているのです。

(2)会社法を読み解くためのキーワード

会社法を理解するにあたって、会社法上の重要概念を押さえておくことは必要不可欠です。ここでは、現段階で押さえておくべき会社法上の重要概念について見ていきましょう。重要概念を一覧にすると以下の通りです。

  • 株主
  • 株式
  • 所有と経営の分離
  • 有限責任
  • 定款
  • 資本制度
  • 公開会社

ア 株主

株式会社の社員を株主といいます。社員と言うと会社の従業員をイメージしがちですが、そうではありません。会社法上、会社の従業員は蚊帳の外とされているため、登場しないのです。ここで言う社員は共同所有者のイメージです。つまり、株主は会社の共同所有者というイメージを持っておいて構いません。そうすると、会社の重要事項を株主の集会としての株主総会で決めることがご理解いただけるのではないでしょうか。

会社の株主になるためにはその会社に出資をしなくてはなりません。基本的にはお金を出資しますが、一定の要件の下で物での出資も認められています。出資したお金と引き換えに会社の株式を受け取ることになります。株主は、債権者とは異なり、出資した金額を会社から返してもらえるわけではありません。株主は、原則として、自身の保有する株式を他人に売ることで出資した金額を回収します。

イ 株式

株式会社の社員たる資格のことを株式といいます。株式は細分化された割合的単位の形をとります。たとえば、1000株発行している会社の100株を保有する株主は、その会社の10分の1の持分をもちます。支配権を割合的に持っているのです。

株式にはさまざまな内容を定めることができます。たとえば、優先的に配当を受けられる株式や譲渡の制限を受ける株式などがあります。また、株式は原則として自由に譲渡できます(127条)。ただし、定款・契約・法律の規定により株式の譲渡が制限されることがあります。

ウ 所有と経営の分離

出資者である株主と業務執行を行う取締役とが概念上分離されていることを所有と経営の分離といいます。株主でなくても経営者になれるということが重要です。このことは、会社の成り立ちから論理的に導くことができます。つまり、お金を出す資産家(=株主)が船に乗るのではなく、航海に適した者が船長(=経営者)や乗組員として船に乗ります。ただし、実際には多くの株式会社で株主が取締役になっています。

エ 有限責任

株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とし、それを超えて会社あるいは会社債権者に対して責任を負いません(104条)。このことを株主有限責任の原則といいます。つまり、株主は、会社がどんなに赤字を出しても、株式を取得するにあたって出資した金額以上に支払いを求められることはないのです。このように株主の責任が限定されていることで、株主となろうとする人が安心して会社に出資できるようにしているのです。会社の成り立ちから言えば、お金を出す資産家は、船が沈没してインドから貴重品を持ち帰れなかったとしても、出したお金以上に責任を負うことはないのです。

オ 定款

定款とは、会社の組織と活動に関する根本規則をいいます。会社の設立の段階で作らなければなりませんが(26条1項)、設立後に変更することが可能です(466条)。日本公証人連合会のホームページにひな形がありますので、一度見ておくとよいでしょう。

定款等記載例(Examples of Articles of Incorporation etc) | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)

定款には必ず記載しなければならないことがあります。たとえば、定款には「パンの製造および販売」などというように会社の目的を定めなければなりません(27条1号)。その他、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名・名称および住所、発行可能株式総数を定めなければなりません(27条2号~5号、37条)。

カ 資本制度

資本金・準備金の額を基準として会社財産の充実・維持を要求することで、会社債権者を保護しようとする制度を資本制度といいます。上で見たように、株式会社では株主は有限責任しか負いません。そのため、債権者への返済はもっぱら会社の財産からなされることになります。ゆえに、債権者にとっては会社がその財産を維持・充実することは自分への返済可能性を高めることにつながります。そこで、会社法は資本制度を採用しています。

キ 公開会社

少なくとも1種類の株式について譲渡制限を行っていない会社を公開会社といいます(2条5号)。ひとまず、公開会社とは株式の譲渡制限を行っていない会社のことだと理解しておけば十分です。これに対して、公開会社でない株式会社を非公開会社といいます。非公開会社はすべての株式の譲渡に制限があるため、非公開会社では誰でも株主になれるわけではありません。

 

kubota
難しく感じた方も多いのではないでしょうか。会社法はそれに関与する人たちのさまざまなニーズに応えられるようにしつつも、それらの人たちの暴走を食い止めるために数多くの規制を設けています。それぞれの規制がどのような趣旨で定められているのかを確認しながら一歩一歩進んでいくことが重要です。