1 はじめに
法律の条文を読み解くにあたっては、法律用語の意味や使われ方を知らなくてはなりません。法律用語の意味や使われ方を知らずに条文を読み解こうとすると、そもそも読み解くことができなかったり、間違った読み解きをしてしまうことになりかねません。
しかし、こうした法律用語の意味や使い方について教わる機会はそうそうありません。そこで、弁護士である私が、初学者向けに法律用語の意味と用法を解説していきますので、この機会にみなさんも法律の読み解きができるように法律用語を学びましょう!今回取り扱うのは「又は」と「若しくは」です。
2 「又は」と「若しくは」の意味
「又は」と「若しくは」はどちらも英語でいう”or”の意味です。たとえば、以下の2つの文章をみてください。
- ラーメン又はつけ麺が食べたい。
- ラーメン若しくはつけ麺が食べたい。
この2つの文章は、どちらも「ラーメン」か「つけ麺」のどちらかが食べたいということを意味します。
実際に法律の条文も見てみましょう。
この条文は、未成年者を「略取」か「誘拐」のどちらかをした場合に3か月以上7年以下の懲役となることを定めています。図式的にいえばこうなります。
- 略取
- 誘拐
「略取」と「誘拐」のフォルダがあるイメージですね。ちなみに、「略取」は暴行などによって、「誘拐」は騙すことによって連れ去ることをいいます。
このように、「又は」と「若しくは」はどちらもいろんな事柄を並列させ、並列させたもののどれかに当たればその要件を満たすという使われ方がされます。とはいえ、「『又は』と『若しくは』がどちらも用語として同じ意味なのだとしたら、どちらか1つだけでいいんじゃない?」と思うかもしれません。実は、そういうわけにもいかないのです。その理由は3でお話ししますね。
3 「又は」と「若しくは」の違い
「及び」と「並びに」の違いは、その使い方にあります。「及び」と「並びに」に関して次の3つの約束事があります。
- 2つの内容を”or”でつなげる場合は「又は」を使います。
- 3つ以上の内容を並列的に並べる場合、読点「、」を使い、最後に「又は」を使います。
- 大きなグループとそれより小さなグループがある場合には、一番大きなグループ分けに「又は」を使用し、その他のグループ分けに「若しくは」を使います。
①からみてみましょう、上でみた刑法224条のように、単純に”or”の意味で使用する場合には、「又は」を使うのです。
②については、たとえば次の条文をみてください。
この条文は、「人種」「信条」「性別」「社会的身分」「門地」を並列的に並べています。この場合には、最後の部分である「社会的身分」と「門地」との間に「又は」を使い、それ以外の用語の間には読点を使っています。「政治的」「経済的」「社会的関係」の部分も同様です。
さらに、③については、たとえば次の条文をみてください。
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
この条文は、代理人の死亡とそれ以外の代理人について生じた事由とを並列的に並べています。そして、代理人について生じた事由として、代理人の破産手続開始決定と代理人の後見開始の審判をより小さなグループとして並列的に並べています。ちょっとわかりずらいと思いますが、図式的にいえば、こうなります。
- 代理人の死亡
- 代理人の死亡以外
- 代理人の破産手続開始決定
- 代理人の後見開始の審判
大きなフォルダとして、代理人の死亡のグループと代理人の死亡以外のグループがあり、後者の中に代理人の破産手続開始決定や代理人の後見開始の審判などの小さなフォルダが用意されているイメージです。
このように、大きなグループに「又は」を使い、小さなグループに「若しくは」を使うのです。